その他
“熱気”に包まれるSIerのグリーンIT
2008/07/07 14:53
週刊BCN 2008年07月07日vol.1242掲載
SIerのグリーンITへの取り組みが本格化してきた。省電力型のデータセンター(DC)の新設や増床、既存DCの改修によって電力削減を急ピッチで進める。主要SIerのDCのなかには、エネルギー効率を示す“PUE”指標で業界平均を下回るところが相次いでおり、省エネ化が一段と進展する見通しだ。顧客企業は、温室効果ガスのCO2換算で削減目標を設定する動きが活発化。IT部門もCO2排出削減を強く求められるのは確実で、高効率のDCを事前に用意しておくことで受注拡大を狙う。
省電力DCの新設相次ぐ
PUE2以下が「標準」に
IT分野で最も消費電力が大きいのはDCである。サーバーやネットワークなどのIT機器での電力消費だけでなく、空調やUPS(無停電電源装置)、変圧器などの設備にも膨大な電力が要る。PUEはDC全体の電力をIT機器の消費電力で割った数値で、1に近ければ近いほど効率がよい。現状の平均は2.5-2.8といわれており、ITの省電力化を推進する団体グリーン・グリッドでは目標値を1.6と位置づける。
伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は今年10月に稼働予定の都心型DCのPUEを1.46に設計。グリーン・グリッドの目標値を上回る数値で、かつセキュリティなどの設備水準を上位レベルのTier3にしている。アウトソーシング案件の市場価格に照らし合わせて、「採算が合うギリギリの投資」(CTCの唐木眞・DC事業企画室事業開発部長)と、先行投資の負担を増やしても、省エネ・高機能DCのほうが勝算があると見る。NTTコムウェアは増床する7000m2のエリアの設計上のPUE値を1.3に設定。11月の稼働から5年後の実現を目指す。
富士ソフトは東京・秋葉原のオフィスビル内のDCのPUE2.0を念頭に置く。2007年2月に竣工したオフィスとDCの融合型のインテリジェントビルとしては、「業界トップクラスとの値に持っていく」(富士ソフトの英雄・アウトソーシング事業本部長)構えだ。京セラコミュニケーションシステム(KCCS)は、昨年春までに主な空調設備を更新。DC内の「空気の流れを再度見直す」(KCCSの松木憲一取締役)などしてPUEを1.797に下げた。
DCを巡っては、90年代後半のITバブル時期に、従来のメインフレーム系のDCからオープン系へ設備を更新する動きがあった。空調やUPSなどの設備寿命は10-15年であることから、「多少、前倒しにしてもグリーンITの需要を取り込みたい」(SIer幹部)思惑が働く。さらに、CPUのマルチコア化やブレードサーバーの登場などIT機器の高集積・高効率が急速に進み、機材の技術革新に電源や冷房設備が追いつかなくなってきた実情もある。
インテックホールディングスグループとTISグループが今年4月に経営統合して誕生したITホールディングス(ITHD)では、両事業会社のDC設備の連携を急ピッチで進める。TISでは本体の主要4か所のDCの設備更新を精力的に進めたことで、従来のPUE平均値2.2-2.3から1.87まで下げた。インテックは全国10か所とDC数が多く、オフィスやネットワーク監視室などと兼用する小規模なDCも含まれていることから平均値では2強。都心型DCを主軸とするTISと地方型がメインのインテックの設備とうまく連携させることで、「グループ全体として効率化を図る」(ITHDの石井貞行・執行役員)と相乗効果を生かすことで省電力化を進める。
顧客企業のCO2排出削減の需要は高まりを見せている。SIerは高効率の自社DCを活用することで具体的な削減値を顧客に提示。グリーンITの要望に応えることでアウトソーシングビジネスの拡大につなげる。しかし、省エネ型DCの設置は莫大な先行投資がかかる。初期のDCでは建物の建設にかかる費用と電機設備の投資比率がおよそ1対1だったが、近年では設備の金額が建物の数倍かかることもあるという。シーイーシーでは約90億円を投じて来年1月、最新鋭のDCを稼働させる。TISでは主要DCの設備更新に1か所あたりおよそ30億円かかると見積もる。
相次ぐDC新設で競争の激化も予想されるが、SIerの総合力を生かした付加価値の高いビジネス展開による投資回収を急ぐ必要がありそうだ。
グリーンIT PUE指標に戸惑い
数値にばらつき、DCの運営方針で違いも
PUE(Power Usage Effectiveness)はデータセンター(DC)のエネルギー効率を示す指標の一つだが、現場ではこの指標に戸惑う声も聞かれる。測定時期やDCの運営方針によってPUE値にばらつきがでるためで、「実態を的確に反映していないのではないか」と、抵抗感を示すSIer幹部もいる。なかにはPUE値を開示しない、あるいは一部しか開示しないケースも見られる。
端的な例が、新設したばかりのDCのPUE値だ。IT機器の設置台数がまだ少ないため、どうしてもPUEが悪くなる。何十億円もかけて新設したDCなのに当初から見劣りする印象を残しかねない。NTTコムウェアが新設DCのPUE1.3を5年後に実現するというのはこのためで、設計上、最も効率のよいIT機器の設置台数に達しないと、最良の値は得にくい。
さらに、IT機器と空調や変圧器、UPS(無停電電源装置)など設備の設計寿命の違いもPUEに影響を与える。オープン系サーバーは3-5年サイクルで買い換えることが多いが、設備は10-15年はもつ。IT機器の集積度は年を追うごとに高まり、1ラックあたりの発熱量は増える一方だ。高集積化するIT機器に設備が十分に対応できなくなれば、エネルギー効率は下がりPUEも悪化する。
また、DCの運用方針にも左右される。例えば、IT機器の買い換えサイクルを当初から2年に設定し、この期間だけ稼働すればよいと割り切る考え方もある。仮にDCの室温20度を維持すれば7年もつところを、40度で運用すれば2年で寿命が尽きるとする。IT機器の寿命は運用温度に反比例する傾向があるからだが、当初から2年で計画しているので問題はない。仮想化技術などで冗長化すれば、多少故障率が上がってもやり過ごせる。結果、空調の電力消費は抑えられ、PUE値は下がる。
このようにPUEは、DCの環境によって常に変動するため、本来なら“現時点”でのPUEを公開したうえで、“何年後にここまで下げる”と目標値を提示。常に最新のPUEにもとづいた改善が欠かせない。必要であれば第三者機関による検証制度の普及も視野に入れるべきだろう。
SIerのグリーンITへの取り組みが本格化してきた。省電力型のデータセンター(DC)の新設や増床、既存DCの改修によって電力削減を急ピッチで進める。主要SIerのDCのなかには、エネルギー効率を示す“PUE”指標で業界平均を下回るところが相次いでおり、省エネ化が一段と進展する見通しだ。顧客企業は、温室効果ガスのCO2換算で削減目標を設定する動きが活発化。IT部門もCO2排出削減を強く求められるのは確実で、高効率のDCを事前に用意しておくことで受注拡大を狙う。
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