7月4日午前4時、「ダビング10」がスタートした。これでデジタル放送番組のコピー制限が緩和され、レコーダーなどの使い勝手も大幅に向上することとなった。販売の追い風にもなりそうだ。だが、その内容は複雑でわかりにくい。そこで、「ダビング10」をおさらいしながら、これをきっかけに生まれる新たな利用シーンについても考えてみた。
コピー9回とムーブ1回がOKに
「ダビング10」とは、HDDに録画したデジタル放送の番組を、DVDやブルーレイディスク(BD)、メモリカードなどに9回まで「コピー」でき、最後の1回は「ムーブ」できるコピー制限のこと。「コピー」では、録画した番組データはHDDに残るが、「ムーブ」では、BDなどに番組が保存された時点でHDDのデータは削除される。つまり番組データがHDDからBDなどに移動(ムーブ)するわけだ。
また、HDDに録画した番組にのみ適用されるので、BDなどに直接録画した場合はダビング10の対象とされない。したがって、一度HDDからDVDメディアやメモリカードにコピーした番組を、さらに違うディスクにコピーする「孫コピー」はできない。
さらに「ダビング10」では、アナログ出力でのコピーが大幅に緩和された。各レコーダーにはアナログ出力端子が搭載されているが、従来はこの端子経由のアナログコピーは禁止されていた。「ダビング10」ではこれがなくなり、デジタル出力のように「10回まで」という回数制限もなくなった。とはいえ、アナログ出力の場合もコピーしたBDなどからの孫コピーはできない仕組みになっている。

「ダビング10」が実施されるまでは、「コピーワンス」というコピー制限が設けられていた。しかし「コピー」の解釈が異なっており、デジタル放送をHDDに録画した時点で1回目のコピーとカウントするため、実際は「1回だけ放送をHDDなどに録画(コピー)できる」制度だった。したがって、HDDに録画した番組をDVDなどのディスクに保存しようとすると、「コピー」ではなく「ムーブ」しなければならなかった。つまり、元データは削除されてしまうのだ。
この制限が少なからず悲劇を生んだ。録画データをディスクに移動する際に、DVDなどへの保存に失敗してしまうと、HDDにもDVDにも番組データが残らず、消失してしまう。失敗を恐れるあまり、DVDなどのディスクには番組を移さずにずっとHDDだけで視聴するというユーザーもいたようだ。
「ダビング10」では、9回の猶予が与えられたことでデータ紛失のリスクはほとんどなくなったといっていいだろう。ユーザーは、安心してコンテンツをBDなどに保存できる。これがユーザーにとっての1番大きなメリットだ。
機器の対応には時間が必要
7月4日にスタートしたとはいえ、すべての機種がいっせいに「ダビング10」に対応したわけではない。例えば、レコーダーとテレビは、主に「放送ダウンロード」という方法で順次対応していく。放送電波を使って機器のファームウェアをダウンロードしソフトを書き換えていくわけだ。
放送波を使うため、一度にたくさんの機種のプログラムを送信できないので、送信の順番待ちが生じる。そのため、各社・全機種をいっせいに対応させることはできず、順次徐々に対応していくことになる。おおむね2週間から1か月程度は対応に要する期間としてみておく必要がありそうだ。
「ダビング10」で複数のコピーが作れるようになることで、利用シーンは広がりそうだ。例えば寝室、リビング、キッチンなどに置いた複数のレコーダーで同じ番組を同時に楽しんだりすることも可能になる。家族が別の部屋で同じ番組を好きなときに観るといった使い方もできる。
また、録画した番組を携帯電話や携帯オーディオに転送して持ち運ぶ使い方をしていたユーザーにとっても利便性が向上する。例えば、番組をBDなどに保存した後でも、まだ8回まで転送できるので安心だ。ソニーは、PSPやウォークマンへの転送を簡単にしたレコーダーをすでに発表しており、東芝もSDメモリカードに番組をコピーする機能を搭載した液晶テレビを開発している。どちらも「ダビング10」を見越してこのような機能を用意していたという。こうしたモバイル機器との連携も、「ダビング10」開始にともなって広がっていきそうだ。(津江昭宏)