妥協点の探り合い続く
クリエイティブ・コモンズ(CC)の考え方が広まっている。動画投稿サイトやブログ、SNSなどユーザー参加型メディア(CGM)の爆発的な盛り上がりを受けて、従来の著作権ルールが実態にそぐわなくなっているからだ。CGM運営会社は、CCの考え方を採り入れたルールづくりを進めており、コンテンツの権利者とユーザーの双方にメリットのある妥協点を探りだそうと努めている。権利者にメリットを与えつつ、自社のCGMの発展やユーザー満足度の向上につなげるのが狙いだ。
CGMの巨大化で状況変わる
ネットで簡単に映像を扱えるようになった現在、著作権問題は深刻化の度合いを増している。なかでも映像は、動画や静止画、音楽、セリフ(音声)など構成要素が多く、制作費もかさむ。権利者が著作権に敏感になるのは当然のことだ。動画投稿やブログ、SNSへ無制限にコピーされれば、権利者にとって即座に金銭的な損失に結びつく。ただ、ネット人口が増え、800万件近いID登録数を抱える国内最大手の動画投稿サイトのニコニコ動画のようなメディアが登場すると、にわかに状況が変わってきているのも事実だ。
動画投稿サイトでは、例えば音楽や動画、セリフをユーザーが思い思いに切り貼りして1つの作品をつくる「MAD(マッド)」と呼ばれる二次創作物が少なくない。素材の一部に権利者の承諾を得ていないものを使うケースも見られる。ニコニコ動画を運営するドワンゴグループでは、7月に入って権利者団体と「著作権を侵害している動画(MAD動画を含む)を削除する」ことに同意。そのうえで8月中をめどにCCの考え方を採り入れた「ニコニ・コモンズ」を開設する。
ニコニ・コモンズでは、コンテンツの使用ルールを権利者側であらかじめ決め、広くユーザーに使ってもらう仕組みだ。ニコニ・コモンズにコンテンツを登録した後からでもルールを変更できるようにしたり、有料での販売も認める。「法人や個人を問わず、権利者が素材を提供しやすい環境をつくる」(ニコニコ動画の西村博之・管理人)ことに主眼を置いた。ユーザーによって使用されたコンテンツはID番号が振られ、どこに何を使われたのかすぐに分かるようにする。
権利者にメリットあるCC
 | 【クリエイティブ・コモンズ(CC)】 主にネット上に展開されるユーザー参加型メディア(CGM)で使われる著作権ルールの考え方。権利者があらかじめ当該コンテンツの使用ルールを定め、その範囲内で著作権を一部開放する。例えば「非営利での使用に限定」「改変不可」「権利者名の表示義務」などのルールを適用。これを遵守すれば二次利用が可能になる。 |
ネット上のCGM型メディアは、すでに無視できないパワーを持っている。今やテレビ局だけが映像メディアではない。ネットの力を販促に利用したい権利者の思惑も見え隠れする。従来のような「複製は一切認めない」では、ビジネスとして逆にマイナスになりかねない。ドワンゴの小林宏社長は、「MADは文化だ」と宣言。すぐれたMAD作品はユーザーの幅広い支持を集め、素材で使われた元の作品の認知度が高まる。これによって原作のノベルやコミック、ゲーム、DVD、CDの販売増に結びつく事例を増やす考えだ。
書籍や雑誌風のコンテンツを制作できるBCCKS(ブックス)もCCの考え方を採用している。昨年7月の設立から今年5月時点でユーザー数は35万人に増えた。ブログやSNSとは異なり、ファッション雑誌のような豊かな表現ができる点が人気を呼ぶが、コンテンツがリッチになればなるほど、前述の動画投稿と同様の著作権の問題が表面化しやすくなる。そこでCCをベースにした使用許諾条件をあらかじめ定め、その範囲内で素材を提供する。
CCに詳しいBCCKSの安藤摂・取締役は、「ユーザーと権利者、CGMサービスの運営者がともに納得できる落としどころが必要だ」と指摘する。権利者が、最終的に自らのビジネスにプラスになると判断できれば、CCを受け入れ、著作権の一部を開放する動きが出てくる可能性はある。どれだけのコンテンツをどこに提供すれば、どれだけの見返りがあるかの測定を行い、プラスと判断すれば条件つきで認めるという具合だ。
さらに一歩進めば、高い評価を得ているCGMコンテンツに対して、企業がなんらかの支援をすることも考えられる。積極的な素材提供もその1つと位置づけることもできる。サービス運営者は、素材提供によってユーザーが増えれば収益に結びつく。ユーザーが苦心して制作したコンテンツが“著作権侵害”で削除されることも減り、利用者の満足度も高まる。
7月29日-8月1日にかけて札幌でCCの国際会議「アイコモンズ・サミット」が開催される。CC創設者やコンテンツホルダー大手の角川グループ、ニコニコ動画、学識者など幅広い層からさまざまな意見を交換する場だ。ネット時代の著作権の捉え方が変わる兆しが見える。