マイクロソフト(樋口泰行社長)のSMB(中堅・中小企業)事業強化施策が動き出した。2008年2月からSMB事業を担う窪田大介・執行役専務ゼネラルビジネス担当が立案した複数の強化プランが、今年度から一斉にスタートしている。
「パートナーが儲かる仕組み」を提供
「社長の右腕」窪田専務が計画練る

テレセールス部隊のテコ入れや、首都圏の顧客に対し集中的に提案活動する専門営業部門の設置などが骨子。「パートナーが儲かる仕組みを提供できていないために信頼が薄かった」(窪田専務)ことを認識し、ISVやSIer、ディストリビュータから要望や不満を吸い上げる取り組みも9月から開始する。マイクロソフトが定めたSMBビジネスの今年度(09年6月期)の成長率は、前年度比2ケタ以上。挑戦的な目標達成に向けて“窪田プラン”が動き出した。
マイクロソフトが定義するSMBとは、PC台数1000台未満の企業・団体。この顧客層向けとパートナー向け施策を担当するのが窪田専務だ。同氏は社長同様に日本ヒューレット・パッカード(日本HP)出身。日本HP時代はPCやサーバーなどのハード販売で販社網を整備してきた。パートナー向け施策で評価が高く、知名度も十分。樋口社長が自ら引き抜いた、「社長の右腕」と称される人物だ。
今年2月、ゼネラルビジネス(=SMB事業)を担当していた樋口社長(当時COO)からバトンを受けた窪田専務は、約半年の準備期間を経て7月1日に新施策を一斉にスタートさせた。それが、(1)テレセールス部隊のテコ入れ(2)ソリューションセールス専門人員の配置(3)首都圏専門営業部門の新設(4)パッケージソフト販売強化の4プランだ。
テレセールスの強化では、SMBのなかでも「アッパーミドルマーケット」と同社が呼ぶPC台数250台以上1000台未満の企業約7300社に対し、徹底的にテレセールスを展開する戦略に変更した。「従来は製品単体売りが中心だったのを、複数の製品を組み合わせたソリューション提案ができるようにスタッフを再教育する」(窪田専務)。それと併せて、「テレセールスから当社の営業、パートナーへと案件がスムーズに流れるようにする」。
ソリューションセールス専門人員は、(1)サーバーなどのインフラ系ソフト(2)クライアント系ツール(3)データベースという3分野で、ソフト単体の知識やノウハウではなく、ソフトを活用したソリューションを熟知するスペシャリストを14人配置。このスペシャリストが社内の営業担当者やパートナーに対し、技術的優位性や提案のポイントなどをレクチャーする仕組みを整えた。
3番目の施策としては、東京都ほか神奈川・千葉・埼玉・茨城・山梨の1都5県を集中的に営業する地域専門の営業部隊「東京・首都圏営業統括本部」を約20人体制で組織した。今年3月末まで社長だったダレン・ヒューストン氏は地方ビジネスの活性化を標榜し、地方支店の開設・拡充に力を注いできた。だが、「その分、肝心の首都圏営業が手薄になっていた」(窪田専務)。それを改善するための施策で、新本部の設立で今年度のSMB事業売上高のうち54%をこの1都5県で稼ぐ算段だ。
一方、パッケージソフトでは、これまで全くPRしていなかった点を改め、営業・プロモーションを加速させる。ソフトの販売形態はライセンスとパッケージの2通りがあり、パッケージは縮小傾向だが「依然約30%はパッケージでの販売」という。そのうち、約3分の2は法人向けの流通チャネル業者から販売されており、具体的施策は未定だが、「ここ3年間、何もしていなかった状況を改める」(窪田専務)方針を打ち出した。
この4プランを進めながら、パートナーとの信頼関係を再構築する。窪田専務は、「パートナーに対して儲かる仕組みを提供できていない。マイクロソフトからの一方通行のコミュニケーションも多く、信頼関係が強固とは言えなかった」と分析している。これを打開するために、9月から有力なSIerやISV、ディストリビュータ数十社と面会の場を持ち、不満や要望を吸い上げる取り組みを始める計画だ。また、パートナー向けWebサイトについては「分かりにくいという不満が多いためリニューアルする」(山口畝美・ゼネラルビジネスマーケティング統括本部統括本部長)意向だ。
窪田専務は、担当するゼネラルビジネスの目標を「前年度比2ケタ成長は必須で、会社全体の成長率を上回りたい」と強調。米マイクロソフトは昨年度(08年6月期)、前年度比18%の成長を記録したが、日本法人は2ケタ成長に届いていない。他の先進国に比べて伸びが低く、短期的に成果が求められている模様だ。今年度は全社的に2ケタ成長を目標に掲げており、潜在需要が見込まれるSMB事業をターゲットとする“窪田プラン”に大きな期待がかけられている。