SAPジャパン(八剱洋一郎社長兼CEO)は、年商500億円未満の中堅・中小企業(SMB)向けビジネスに拍車をかける。8月に年商50億円以上200億円未満のユーザー企業をターゲットにした戦略的ERPを発売、商品ラインアップを強化した。これを機にSMB市場を年商規模で新たに3区分した。各規模ごとに既存2タイトルを含めて3種のERPを提案する体制に変更、9月から新ラインアップで本格的に営業展開を行う。
上期と同じく昨対30%増狙う
SAPジャパンが販売するSMB向けの今年度上期(2008年1-6月)ライセンス売上高は、対前年同期比で30%増。市場成長率に比べて段違いに伸びた。新商品群により、今年度通期でも対前年同期比で30%増の成長率を維持する心積もりだ。
SAPジャパンは、年商500億円未満のユーザー企業を中堅・中小企業(SMB)として位置づける。SAPは、この市場を主に2種のERPで攻めていた。年商50億円未満のユーザーを対象とする「SAP Business One(Bone)」と、年商50億円以上500億円未満の「SAP Business All-in-One(Aone)」がそれにあたる。「Bone」は最小システムでの導入費用が300万円、一方の「Aone」は1億円で、上位の「SAP ERP」などに比べて安価。「SAP製品は高価」とのイメージを抱いているSMBを価格で刺激した。

SMB向け商品の今年度上期(1-6月)実績は、合計ライセンスの売上高が昨年同期比30%増で伸びた。国内ERP市場の成長率は4.3%(IDC Japan調べ、08年-12年の年平均成長率予測)である状況と比較すれば段違いの成長率。とくに「Aone」が好調で、パートナー専任営業人員を昨年同時期と比較して2倍に増やし、「パートナー経由の販売体制を昨年以上に重視し、営業・導入作業を手厚く支援したことが奏功した」(神戸利文・バイスプレジデント)。パートナー経由のライセンス売上高および案件数(見込み含む)は約2倍に跳ね上がったとしており、けん引役を担っているようだ。
この好結果に拍車をかけようと8月に発売した新商品が、「SAP Business All-in-One FAST-START PROGRAM(FSP)」だ。年商50億円以上200億円未満の企業をターゲットにしたERPで、「『Aone』では高価、『Bone』ではモノ足りないという要望に応えられなかった」(神戸バイスプレジデント)という課題を解決する。
「FSP」は、最小構成での導入コストを3000万円に設定し、同等の機能を持った従来商品に比べ約3分の1の価格でユーザーが購入できるようにした。導入費用はライセンスだけでなく、ハードやサービスを含めた金額。財務・管理会計と購買・在庫管理、販売および生産管理、プロジェクト管理機能を備えたERPのライセンスとハード、導入サービスをセットにした価格を明示することで、ユーザー企業が検討しやすくなるよう図った。
また、無償のWebアプリケーションツール「Online Configurator」を公開。同ツールはユーザー企業がWebブラウザで、欲しい機能を選択すると自動的に費用が分かる仕組みだ。セット化と同ツールの提供で、「高価で複雑」とのイメージを払拭する。8月末、同ツールの日本版がようやく完成し一般公開を開始したことで、9月から販売するパートナーのリクルートなど、営業活動を本格的にスタートさせた。販売目標は来年度末までに100社の顧客獲得としている。「Bone」より2-3倍速いペースで100社の顧客獲得を狙う。

神戸バイスプレジデントは、「FSP」の競合について、「大塚商会や富士通といった営業力の強い企業を競合として意識している」と説明している。また、「『FSP』はコンサルティングなどのサービス分野ではあまり稼げないが、手離れがよい商品でパートナーはERPの案件を数多く稼げるようになる。SAPのERPを販売していないSIerでも容易に売れる。また、リコーなどの事務機販社やダイワボウ情報システムなどの卸業者にも取り扱ってもらえるよう交渉する」とパートナーのメリットを強調している。この点を訴えて、パートナーを募る。
「FSP」の投入で、年商500億円未満のSMB市場を3区分し、3種のERPで攻略する体制を整えた。SAPは大企業には強いものの、中堅・中小企業市場では国産メーカーの後塵を拝している。この現状を打破し、外資系が弱いSMB向けERP市場の勢力図を本気で塗り替えようとしているのだ。