「ユビキタス戦略」立て直す必要も
内田洋行の業績に精彩が欠けている。9月1日付で発表した昨年度(2008年7月期)連結売上高は前年度比0.1%減の1478億円。ここ数年、1500億円のラインを行き来する。営業利益は同16.1%減の24億円で、3期連続の減益だった。
同社は情報システムとオフィス家具、教育分野の3事業で構成する独自のビジネスモデルを構築。ITをベースにオフィスや学校商材の付加価値化を進めるものの、昨年度の業績を見る限り、道半ばという印象は拭えない。
課題は情報システムとオフィスの連携だ。教育事業の約6割はIT関連が占めるのに対して、オフィス事業は1割程度。売り上げ全体の約4割を占めるオフィスのユビキタス化の遅れも目立つ。情報システムとオフィスは、同じ企業向けのビジネスであるため、教育分野に比べて連携が容易のように思われるが、実は難関が横たわる。
内田洋行の強みとする情報システムは中堅中小企業の基幹業務システムだ。ERP市場は徐々に成熟期を迎えて競争が激化。同社では食品業界や住宅設備機器卸、包装資材卸など業界別の得意分野を重点的に伸ばすことで勝ち残りを進めてきた。一方、オフィスにユビキタス環境を必要とする顧客は大企業が中心。市場は成長しつつあるものの、中堅・中小のレイヤまで下りてきているとはまだ言いがたい。情報システム事業は中堅・中小や業界攻略に意識が向くあまり、オフィス事業との距離がなかなか縮まらない。情報のメインターゲットとオフィス・ユビキタスのターゲットのズレを、早急に埋めていく必要がある。
同社では、ユビキタスコンピューティングを主要テーマの一つとして、研究開発を100人規模の体制で推進。無線タグや無線LAN、オフィスに据え付けたプロジェクターとパソコンを連携させるなど、オフィス全体を電脳空間にするさまざまな取り組みを行う。大学や研究機関との連携にも積極的だ。このあたりは、他のSIerはもとより、ライバルのオフィス家具メーカーの追随を許さない同社の最大の強みである。
もう一つの課題が販社網の再編。情報システムやオフィスなどの直系販社10数社に加えて、ビジネスパートナーとして情報システムで約100社、オフィスで約2500社、教育で約1000社を抱える。内田洋行本体のユビキタス戦略が業績に現れていないため、成功モデルを販社やビジネスパートナーに移植しにくい。また、販社網を十分整備できていないため業績が伸びにくいという、逆の側面からみたジレンマも指摘される。
昨年末のインタビューで向井眞一会長(取材時は社長)は、過去数十年にわたって綿々と築き上げてきた販社網を整備するのは「相当な体力がいる」と吐露。今年7月、トップに就いた柏原孝社長は、販社網の再編という重い課題も引き継ぐ形になった。今年度は内田洋行にとって3か年中期経営計画の最終年度。来年度からは新しい経営計画をスタートさせることから、「中期ビジネスプランの策定を急ぐ」(柏原社長)と課題克服に全力を注ぐ。同社創業100周年に当たる2010年に向けて、次の成長戦略を打ち出せるか、重要な節目を迎える。(安藤章司●取材/文)