企業の内部統制対策状況は?
IT投資は翌年度が本番か 3月期の上場企業であれば、今年4月1日以降開始となる事業年度から義務付けられているのが“J-SOX法(日本版SOX法)”への対応だ。9月末で上半期が締まり、監査対象年度の「最初の半分」が過ぎた。対象企業の対応はどこまで進んでいるのか? 関連するIT投資はベンダーの期待通り活発化しているのか? 折り返し地点を迎えた今、対応状況と関連するITマーケットの現状を分析してみよう。(木村剛士●取材/文)
■不備を実感する企業多く 対応状況は完璧とは言えず 企業の不正会計撲滅、財務報告の信頼性確保を目的に、米SOX法にちなんで一部の内容を“J─SOX法(日本版SOX法)”と呼ぶ「金融商品取引法(金商法)」が成立したのは、2006年6月のこと。もう2年以上も前だ。対象となる上場企業やその子会社などは、J─SOX法対応の準備を急ピッチで進め、内部統制の仕組み構築に取り組んできた。今もその状況は変わらず、ITベンダーの会計監査に詳しい岩谷誠治会計士によれば、「クライアントは四半期決算の開示とともに、内部統制の仕組み構築に頑張っている真っ最中。会計士も臨戦態勢で業務を進めている」とか。金融庁の実施基準公表が遅れたため、最初からバタバタした感のあったJ─SOX法対応だが、現在もその状況に変化はないようだ。
内部統制とは、財務報告の正確性を保つための企業の仕組みを総称して指す。財務報告に記された情報が、改ざんされていないことを前提に、どのような業務プロセスを経て作成されたかを証明し、さらにそれを作成した一連の業務プロセスを可視化することが必要となる。3月決算の企業であれば、今年4月1日から始まる事業年度から内部統制報告書の提出や外部監査が求められる。つまり今年度が監査初年度なのだ。9月末で(半期の)折り返し地点を越えた今、対象企業の対応状況が気になる。
ITベンダーを中心に36社から有識者が集まり、07年11月に立ち上げた任意団体「After J─SOX研究会」。同研究会では「09年初頭段階でも、同法への対応がほぼ完了する対象企業は71%にしか到達しない」と予測している。また、対応準備を進めていくなかで顕在化した運用上の不備に「未着手、または着手段階」なのは、08年初めの段階で83%。さらに、09年初めの段階で運用不備の改善が「間に合わない・重要な欠陥が残る」対象企業が、20%はあるという。
この事態について、同研究会の運営委員は「現段階で2割の企業が『間に合わない・欠陥が残る』と感じてしまうのは明らかに問題。5社のうち1社は、すでにギブアップしているようなもの」と、強い懸念を抱いている。
それとは別にこんな話もある。先日、アビームコンサルティングが上場企業2800社に対して行った調査の話だ。その調査レポートによると、約7割が規定・マニュアル類の作成・改定作業などの「整備・構築」を進めている状況で、いまだ準備段階であることが判明している。こちらのレポートでも多くの企業が内部統制の不備を感じており、「決算財務報告プロセス」では57%、「業務プロセス」では、なんと72%が調査実施時点で不備発生を認識していた。
今も対象企業の内部統制構築は万全とはいえず、その不備を対象企業は認めているだけに、来年行われる外部監査は一筋縄ではいかなくなりそう。ひと悶着ありそうな状況だ。
■IT投資もこれから 需要本格化は09年以降 では、ベンダーが重視するIT投資についてはどうか。内部統制の仕組み構築には、業務プロセス可視化のための情報システム導入などが欠かせない。「07年ごろからIT投資に弾みがつき、08年に本格化する」という見解で、IT業界はほぼ一致していたのだ。
本人認証などのセキュリティツールを販売するエントラストジャパンの宮部美沙子・マーケティング部長は、「ジワジワとコンプライアンス(法令遵守)対応、内部統制の仕組み構築のために導入検討する企業が増えてきた」と実感している。ただ、宮部部長のような意見は少数で、セキュリティ関連を中心にITベンダーの声をまとめてみると「期待に比べユーザー企業のIT投資需要は喚起できていない」という意見で現状一致している。
J─SOX法対応コンサルティングサービスに強いアビームコンサルティングの永井孝一郎プロセス&テクノロジー事業部プリンシパルはこう指摘する。「ユーザー企業は今、内部統制報告書の作成や不備がないように目先の対応を迫られている状況。内部統制のIT化は、とりあえず1年目が終わった後の来年度から本格化されるだろう」。業界が期待していたIT投資は、今年度ではなく来年度以降にジワジワと来るというわけだ。
当初の予測通りとはいうものの、対応は遅れがちでIT投資も来年度以降に持ち越し。折り返し地点を迎えた今、企業の対応もIT投資もまだまだといえそうだ。本番となるのは来年度ということだろう。
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| 国内コンプライアンス市場の今後 | IT調査会社のIDC Japanが今年4月に公表した2012年までの国内コンプライアンス(法令遵守)関連市場規模予測によると、08-12年の年間平均成長率は23%、12年には1兆8200億円規模になると予測している。ITマーケット全体の年平均成長率が1-3%程度なのに対し、コンプライアンス関連製品・サービスは急拡大するとみている。 07年は、一部企業で内部統制関連投資が顕在化。セキュリティやストレージなど、コンプライアンス関連IT基盤を構成する製品の導入が進んだという。 |  | また、既存IT資産を蓄積してきたメインフレームやビジネスサーバーの役割が再認識された一面もある。08年以降は、財務以外の分野を含めたコンプライアンス業務プロセスの効率化や自動化を支援するソリューションへの需要が拡大するとIDC Japanは市場を有望視している。 ただ、昨年や今年のコンプライアンス対応はあくまで大企業の話。中堅・中小企業(SMB)では、内部統制報告書提出の2回目を迎える10年以降にコンプライアンス関連のIT投資が本格化し、市場全体の持続的成長をけん引するとみている。 | | | |