創作の連鎖反応を引き起こす
音楽や映像で自由に表現
ユーザー参加型メディア(CGM=Consumer Generated Media)が急成長している。国内最大の動画投稿サイト「ニコニコ動画」は、今年9月末時点のユーザーID登録数が930万件に到達。直近では毎月50万件ペースで増え続ける。音楽アーティストが多数参加する音楽系CGMのマイスペースは、国内のアーティスト・クリエーターの参加数が5万5000組余り。全世界では同800万組を超える巨大サイトに成長した。zoomeやニフティ、BCCKSもユーザーを増やしており、CGMサービス隆盛期を迎える。

CGMはこれまで、掲示板の2ちゃんねるやSNSのmixi、百科事典のウィキペディアなど、テキストや静止画が中心だった。ネットのブロードバンド化によって、映像や音楽のCGM化が急速に進展し、より多くのユーザーの心を捉える。リッチなコンテンツがネット上で楽しめるようになれば、サーバーやネットワーク、パソコン、編集ソフトなどさまざまなIT製品の需要が増し、それはコンピュータ業界にとってもメリットが大きい動きである。
音楽・映像系のCGMコンテンツで注目を集めるのが電子の歌姫「初音ミク」だ(写真1参照)。アイドル歌手かと聞き間違えるほどの見事な歌唱力を持つソフトウェアで、2007年8月にクリプトン・フューチャー・メディアが製品化。ニコニコ動画やzoomeなど動画投稿サイトが楽曲の発表の場として活用され、大ヒットした。毎日のように初音ミクの新曲が発表され、さながら特設のライブハウスのように盛り上がる。わずか1年余りで初音ミクが歌う楽曲は1000曲にのぼる。CD化したり、カラオケで配信される楽曲も少なくない。ミクと同類のソフトも相次いで発売されている。
非商業ベースの同人ゲームから発展してきた「東方Project」系のコンテンツもCGMを語るうえで欠かせない存在。創作の方向性が一致するアマチュア仲間がサークルをつくって、アニメやゲーム、コミックなどのメディアミックス方式でコンテンツを多数制作している。年2回開催される世界最大級の同人誌即売会「コミックマーケット(コミケ)」が作品発表の場として有名だが、近年では動画投稿サイトなどネット上のCGMサイトへも活動の領域を広げている。
写真2は、ニコニコ動画に投稿された東方Projectの人気キャラクターの1人「因幡てゐ」を主人公にした二次創作作品。

この作品においても複数のユーザーが原作をもとにした音楽や映像の制作に参加。一つの作品を仕上げている。クオリティが極めて高く、9月20日に投稿されてから20日間弱で再生数53万回強、コメントは2万2000件を超える大ヒット作品となった。
アニメ・ゲーム、コミックは日本が世界に誇るべき文化であり、アマチュアからプロまで人材の層も厚い。ニフティが運営する@niftyビデオ共有では、ブログに貼り付ける小型ソフトウェアのキャラクター「ブログ妖精ココロ」を題材にしたコンテストを開催(写真3参照)。

お堅いニフティでは珍しい美少女キャラクターで、いわゆる“萌え”要素を含む。今年春から本格的に人気が出始めて、すでに2万人を超えるユーザーが自らのブログにココロを掲示する。コンテストでは多数の動画作品が集まるなど盛り上がりを見せる。
CGMサイトでも異色なのがBCCKSとマイスペースだ。BCCKSはネット上で本や雑誌を公開できるサービスを提供。長年培ってきた紙メディアの編集技術をネット上で表現するもので、見やすさや美術性の高いコンテンツが多数揃う(写真4参照)。今はテキストと静止画が中心だが、将来的には映像や音楽なども採り入れていく方針だ。

マイスペースは米国初の音楽系SNSで、著名アーティストやインディーズが多数参加する。無名の音楽家がマイスペースを舞台にしてメジャーデビューするケースも多い。直近ではネット上で出会った日本人とタイ人のミュージシャンが「SweetVacation」という名でユニットを結成。マイスペースに自らの楽曲を公開すると瞬く間にファンが増え、今年夏にはメジャーデビューを果たすまでに成長した(写真5参照)。

日本のCGMはアニメやゲームだけにとどまらず、デザインやJ-POPの領域まで幅広く浸透しつつある。 (週刊BCN 2008年10月20日号掲載)