「Webデザイン」の一大都市目指す
マイクロソフトと強力タッグで
北海道・旭川市が地元IT産業の活性化に向けて新たなチャレンジを開始した。Webコンテンツのデザイン制作を市全体で看板ビジネスに育てようというのだ。「Silverlight」などのWebデザイン技術を持つマイクロソフトをパートナーに選びWebデザイナーを育成、「Webデザインの街=旭川」というイメージを全国的に広め、主要商圏からデザイン制作案件を勝ち取る算段だ。IT産業活性化のために、旭川市はマイクロソフトの協力のもと、Webデザインの深掘りに全力をあげる。(木村剛士●取材/文)
IT産業活性化に向け「Webデザイン」に照準

北海道の中央に位置し人口約36万を抱える旭川市。人口規模でいえば、札幌市に次ぐ道内第2位の市だ。ただ、札幌市との差はかなりある。札幌市の人口は道内全人口の3分の1にあたる約190万人で、旭川市の5.3倍。産業面でも札幌市は道内総生産の85%ほどを占める。人口および産業、ともに札幌市に集中しているのが実情だ。
IT産業でみても札幌市への一極集中構造は変わらない。それどころか、旭川市は「札幌だけでなく室蘭市や函館市よりも規模が小さく4位」(旭川ICT協議会の古川正志会長)に下がる。旭川の情報産業ビジネス規模は、札幌市のわずか2%しかないのだ。旭川のITビジネスは、市内の自治体・民間企業から受注する地場案件と、主要商圏に所在するITベンダーからの下請け案件が中心で、一般的な地方都市と変わりがない。「地域として特徴という特徴がないことが低迷する要因の一つ」と、ある地元ITベンダーは指摘している。
旭川市ではすでに、こうした状況を打開するために策を講じていた。2005年に市内IT企業が中心になって「旭川ICT協議会(AICT)」を設立。市全体のIT産業活性化に向けて産官学が連携して「旭川らしさ」追求に向けて動き始めたのだ。同団体の運営委員で、旭川市のITベンダーであるコンピューター・ビジネスの関仁社長はかねがね、「市内の仕事だけでは限界がある。独自性を打ち出してPRし、全国から仕事を誘致しなければ成長はないという意識がある」と、危機感を募らせていたという。今回の「Webデザインの街」構想は、こうした背景から生まれたものだ。

この構想では、市として「Webデザイナー」を戦略的に育成し、「Webデザインといえば旭川」というイメージを全国的に浸透させ、Webコンテンツの開発案件を全国から誘致するのが狙いだ。旭川は知る人ぞ知るデザインの街。とくに家具デザインは有名で、「国際家具デザインコンペティション」など市内で関連イベントも多数開催している。全国的にみれば浸透していないが、地元関係者には「デザインが旭川のPRポイント」という自負があり、そのためIT産業でもデザインを看板にしようとしているのだ。
マイクロソフトと連携
関連技術者を100人に
AICTと旭川市はマイクロソフトをパートナーとして選んだ。マイクロソフトが持つ画像合成技術「PhotoSynth」やブラウザ技術「Silverlight」、Webデザインソフト「Microsoft Expression」などのWebテクノロジーに優位性を感じ、同社とタッグを組んだのだ。AICTは発足当初、オープンソースソフトウェア(OSS)を推進していた印象があるが、06年に旭山動物園のWebコンテンツをマイクロソフトと共同制作したのを境に、同社との関係を強化している。
今回の協業でマイクロソフトは、技術者のトレーニングやセミナーを実施するために「イノベーションセンター」を開設。市とAICTは、マイクロソフトの協力のもと、経済産業省の補助事業として、「Microsoft Expression」の技術習得のためのトレーニングと、総務省関連の情報通信人材研修事業助成金による障害者向け「Silverlight」素材作成教育事業などを展開する。このほか、東海大学芸術学部と旭川大学情報ビジネス専門学校では、マイクロソフトのWebデザイン技術関連カリキュラムを用意。旭川市内の高等学校では同社ベースの技術教育の採用を呼びかける方針だ。一連の施策で、マイクロソフトベースの技術者を2010年までに100人育成する計画。旭川市はこれを機に一気にマイクロソフトとの連携を強化する方針だ。
「特徴がない」という全国の地方都市が共通して抱える悩みを解決するために、Webデザインとマイクロソフトの技術習得に全力を傾ける旭川市。「今は『Silverlight』などのWeb技術を知った段階。すべてはこれから」(AICT)だが、「市全体として盛り上げていきたい」(旭川デザイン協議会の伊藤友一専務理事)と業界の枠を越えて市の結束は高まっている。
マイクロソフト支店長に聞く 北海道ビジネスの実状は |  |
| 7月1日から北海道支店長を務めている大西恭紀氏 |
北海道は日本のGDPの約4%を占めており、うちIT産業は約4000億円。820-830社のITベンダーが存在する。 私どもマイクロソフト北海道支店は道内全都市がビジネスターゲットだが、やはり札幌市が中心だ。昨年度(2008年6月期)の支店売り上げは前年度比で24%増加した。売上高の約半分を占める民間企業向け事業で、とくに中堅・中小企業向けのOS、オフィスソフト、データベースのライセンス販売が好調だったことが貢献した。 パートナー向けの製品セミナーやトレーニングを重視し、昨年度は販社の販売力を向上させる取り組みを積極的に行った。昨年度は主催セミナーを65回開催し、約1200人の参加者を集めたほか、共催セミナーも26回開いた。このような地道な努力が奏功した結果だろう。 今年度の施策としては既存パートナーとの連携を強化する。昨年度まではパートナー数を増やすことを重視していたことから、ゴールドパートナーは13社、認定パートナーは31社、登録パートナーは300社になった。数自体は揃った印象だ。今後は、道内のゴールドパートナーとの連携をさらに密にするつもりだ。全国と同様で、北海道の市場環境はよくないが、前年度同様の伸び率を目指す。(談) |