時代は急速にクラウドへ向かう
クライアント/サーバー(C/S)型の業務アプリケーションを提供する国産ソフトウェアベンダーと世界的なSaaSベンダーのトップが手を握った。中堅・中小企業向けの「奉行シリーズ」で基幹システム領域を引っ張るオービックビジネスコンサルタント(OBC、和田成史社長)と、いまや国内でも完全に地位を確立した米セールスフォース・ドットコム(SFDC)日本法人(宇陀栄次社長)の両雄だ。
この提携劇はIT業界で驚きをもって伝えられた。製品拡販の100%近くを代理店に依存するOBCの“変節”は、業界の“潮流”が予想以上の急流となっていることを浮き彫りにする。
10月中旬、SFDCの宇陀社長は協業会見で「C/SとSaaSがハイブリッドに連携する」と発表し、両社製品を繋げば「新しいITサービスが誕生する」と明言。まずはSFDC元幹部の佐藤秀哉氏が社長を務めるSaaSベンダーのテラスカイが開発したSaaS型システム連携サービス「SkyOnDemand」で両社製品を繋ぐ。そしてOBC側で用意する「奉行V ERP」などとデータ連携させる「アダプタ」を使えば、C/S環境で「奉行シリーズ」を利用する顧客がSFDCのSaaSアプリケーションを、またその逆のパターンでも簡単に導入しデータ連携できるというものだ。
両社の製品を導入している国内ユーザーは、OBCの会計システムが約8万社、SFDCが1000社にのぼる。双方の顧客に両社のパートナーが両社製品を提供し合うだけで、大きなビジネスの構図を描くことができる。今回の提携話がとんとん拍子に進んだのは、両社に共通するパートナーとして、リコーテクノシステムズなどの有力ベンダーが多数存在したことも大きかった。提携はSFDC側から持ち掛けられたが、こうした背景もあって「当社からも是非」とOBCの和田社長は二つ返事だった。特に、OBCにとっては、SFDCのSaaSプラットフォームを利用して、念願の世界進出が見えてくることも決め手となったようだ。
振り返ると今から2年前、SFDCの米本社幹部が日本のSaaS市場の将来性についてこう苦言を呈していた。「SaaS型ソフトは、利用量に応じ課金する仕組み。販売会社に依存する日本のISV(独立系ソフトベンダー)の収益モデルを変えられない」。言い換えれば、「代理店に依存するISV」と手を組むことは不可能で、日本特有の販売モデルにこだわらないベンダーと組む必要性を説いていたのだ。ところが、その2年後には国内トップクラスの全国約300販社を抱えるOBCと協業を成し遂げ、相互にビジネス拡大を目指すこととなった。
SFDCの宇陀社長は、当面、OBCの競合ベンダーであり自前でSaaSを展開するピー・シー・エー(PCA)などとの協業は念頭にないようだ。OBCはすでに、自前でもSaaSを志向して実ビジネスに仕立てているが、「あと7年もすれば『クラウド・コンピューティング』環境が基幹システムでも当たり前になる」(和田社長)と判断している。多くの販売会社を抱えるトップベンダーOBCの動きを見ても、企業のIT環境が激変することは必至だ。(谷畑良胤●取材/文)