経済産業省が進める「SaaS基盤整備事業」。情報システムを自社保有するのに比べて初期投資が少なく、システムの運用も不要となるサービス(SaaS)として提供することで、中小企業のIT活用を活発化させることを狙いとして、今年度(2009年3月期)から3か年計画でスタートした。今年度は18億円、来年度は20億円もの費用を投じて、従業員20人以下の中小企業50万社の利用(2010年度まで)という挑戦的な目標を必達させるつもりだ。
現在の進捗をみると、開発は順調といえる。幹事会社に新社会システム総合研究所を選び、SaaS基盤を開発するITベンダーを富士通に決定済み。ユーザー企業に提供するアプリは、今秋時点で18種類揃えることができている。「計画通りに進んでいる」と安田篤・情報処理振興課課長補佐も心配はしていない。今年度内にサービスを開始するスケジュールで動いており、「第一のヤマ」は越えた。
ただ、サービス提供のためのインフラとメニューを用意するだけでいいのであれば、苦労はない。中小企業のIT化遅れはかなり前から課題と指摘され、IT業界団体もベンダーも、そして政府もさまざまな施策を打ってきた。だが、どれも革新的な成果を挙げたとは言い難い。ITに対する知識も投資力も乏しい中小企業に、メリットを分かりやすく伝えなければ、これまでの施策と同じ結果に終わってしまう。つまり「どう売るか」が次のヤマになる。
来年1月、経産省は認知度を高めるために新たな施策を打つ。それが、「SaaS活用基盤利用促進研修事業」だ。全国の中小企業に対し、今回のプロジェクトの概要やメリット、利用方法などを紹介する研修を年始早々に全国展開する。
まず12月中に中小企業に対し研修業務を行う講師を募集し、講師向けのセミナーを実施する。セミナーを受講した講師が全国に散らばり、来年1月から中小企業のユーザーに向けて研修を一気にスタートさせる段取りだ。全体を取り仕切るのが新社会システム総合研究所で、予算は約2億円。受講者目標は来年3月末までで3万人としている。
講師にはITコーディネータ(ITC)や地場のITベンダー、税理士などを想定している。「(講師は)主要商圏に集中していては意味がない。全国をまんべんなくカバーする形で、講師を配備しなければならなく、数は最低100人は必要だろう。各都道府県の業界団体や商工会議所などと協力する」と安田課長補佐は説明する。安田課長補佐も売る仕組みを整備することを最大のポイントと認識しており、開発以上に神経を尖らせている。
あるITCは「SaaSはもともと手離れがよく売りやすい。国が主導するSaaSサービスとなればなおさら提案・紹介したい」と前向きな姿勢を見せる。一方で、ある税理士は、「システム構築にかかる費用を対象に税額控除が受けられるなど、もっと実利に直結したメリットがないと難しい」と後ろ向きな意見を口にする。はたして、普及に向けて協力が欠かせない税理士やITC、地場ITベンダーをどこまで本気にさせることができるか。来年3月末までは、成功を左右するかなり重要な期間となる。(木村剛士●取材/文)