応研(原田明治社長)は主力基幹ソフト「大臣シリーズ」を全面改良し、連携コンポーネントを搭載した新シリーズ「大臣NXシリーズ」を発売した。毎年定期的に実施していたバージョンアップを行わず、ERP(統合基幹業務システム)と同様の連携・拡張基盤を設けて法・制度改正分などや必要な新機能を不定期で随時追加する方式に改めた。また、同製品と連携する他社製品を募るパートナー制度を見直し、SIerなどが同製品と自社製品と連携して構築したシステムを「横展開」できる新制度を開設。単発の案件ベースで同社製品を扱っていたSIerと長く深く協業するという「商流」改革で再度競合に勝負を挑む。(谷畑良胤(本紙編集長)●取材/文)
パートナー同士の連携強化へ
■開発コストのネック解消
「大臣シリーズ」はこれまで、販売・財務・給与関連の業務ソフトベンダーと同じく、毎年2~3月にバージョンアップ版を出してきた。今回の新シリーズ「大臣NXシリーズ」は、現シリーズをベースにERPと同じようにカスタマイズや拡張などに柔軟対応できるような基盤となる連携コンポーネントを開発。毎年変更する法・制度改正分や機能改善した部分が発生した場合に「NXシリーズ」名で追加版を出すように改めた。
日本の法・制度改正は複雑化する傾向にあり、毎年バージョンアップで改正分を追加搭載する開発コストがかさむ。逆に変更事項が少ないと、変わりばえしないケースがあった。両面の解消を狙ったのが今回の新シリーズだ。第一弾として、12月1日付で改正される公益法人制度に対応した「公益大臣シリーズ」3製品を同月10日に発売する。
競合のオービックビジネスコンサルタント(OBC)やピー・シー・エー(PCA)などに先駆けてマイクロソフトのデータベース「SQL Server 2008」を搭載した。公益法人に続き、来年度(2009年12月期)の第1四半期中には他のシリーズのNX版をリリースする計画だ。
■パートナーの課題解決
新シリーズの「NX」とは、「NEXT(次の世代へ)」を意味する。同社は製品や販売面で既成の手法や戦略などを大転換し、新たなフェーズへの突入を印象づけることを狙う。
新シリーズを連携コンポーネント化したことを受け、独自モジュールを搭載し連携製品を拡充する「ODDS(OHKEN Direct Database Server)」パートナー制度を拡充。新しい連携コンポーネント使用製品などをソリューション提供するSIerによる「DOSP(Daijin ODDS Solution Partner)」会を11月21日に新設した。
これまでここに参加するSIerの多くは、「大臣シリーズ」を単発の案件ベースで販売してきた。しかし、継続的なサポートの問題や、「大臣シリーズ」を続けて販売するためにリソースが不足するなどの課題を抱えてもいた。同会ではこうした課題解決に応えるほか「全国のSIer同士でビジネスマッチングできる仕組みにし、案件を共有化するなどで長く深く当社と関われる体制にする」(岸川剛取締役)と、パートナー制度そのものを根本から見直す方針だ。
 | 「横展開」がキーワード 全国展開の契機となるか |
中堅・中小企業(SMB)向け業務ソフトウェアを開発・販売するソフトウェアベンダーが、定期的なバージョンアップを中止する戦略変更をしたことは競合他社にも影響を及ぼしそうだ。しかし、最近は、応研と同じく法・制度改正分などをWeb経由などで提供する傾向が強くなっている。応研がその方向に大きく舵を切ったことは、年次ベースのバージョンアップ主義が終焉を迎えつつあることを印象づける。 それだけではなく、「DOSP」会を立ち上げたことが注目点で、SMB向けソフトの「商流」を変えそうだ。これまでは、例えば大阪の同社販社が「大臣シリーズ」にカスタマイズやアドオン製品を加えて提供したモノを、同じような要件のユーザー企業が東京に存在した場合、別のSIerが大阪のケースを「横展開」することはなかった。同会では同じ要件の案件はSIer間で連絡を取り合い「横展開」することで、開発工期の短縮や開発コストの削減などを行えるような体制を作り出す。 「大臣シリーズ」の案件は、OBCやPCAなどに比べ対象企業の規模や金額が大きいモノが多く、カスタマイズを加えて平均1000万円程度になる。同社は「各地域のABランクのSIerを獲得したい」(岸川剛取締役)と、案件が比較的大きいだけに同会メンバーを中心に地域内で2次請け、3次請けに仕事の一部を提供することで「地域コミュニティー」の形成ができるとみている。 すでに、特定の業種に強みをもつ茨城や福島、兵庫などのSIerを獲得できている。福岡のベンダーである応研は全国展開を進めてきたが、同会の発足を契機にSIerのすそ野を広げることができそうだ。 |