ストレージ新領域に突入
イーサネットスイッチでSAN(ストレージ・エリア・ネットワーク)構築が可能な「IP─SAN」。国内で、この市場拡大の機運が高まっている。
調査会社のIDC Japanによれば、2007年時点で10億円弱だった市場規模が12年には366億円にまで増えると見込まれる。需要増大の要因について、森山正秋・グループディレクターは、「大企業だけでなく、SMB(中堅・中小企業)でもサーバー統合やサーバー仮想化の導入が進展している」との見方を示す。サーバー集約を生かすにはNAS(ネットワーク・アタッチド・ストレージ)よりもSANが適しているといわれている。しかし、すべての企業がSANの代表的なFC(ファイバー・チャネル)スイッチを使った「FC─SAN」を導入できるとは限らない。価格が高く管理が難しいからだ。IDC Japanでは、「IT予算が少なく、しかも管理スキルを持ったシステム担当者がいない企業では、ネットワークストレージの新しい選択肢として、FC─SANに比べて導入コストが低く、FCの管理を必要としないIP─SANが導入されるケースが増える」(森山グループディレクター)と分析。「09年には本格普及が始まる」(同)と続ける。こうしたなか、ストレージ機器メーカー各社は今年に入ってからIP─SANのインタフェース「iSCSI」採用低価格ストレージ機器を相次いで発売。100万円を切る価格帯に設定することで、SMBのIP─SANニーズをキャッチアップしようとしている。
ただ、IP─SANがSMBに普及する点で課題はないのか。SMBを中心にユーザー企業動向を調査するノークリサーチでは、「ニーズが高まっているかといえば、必ずしもそうとは限らない」(伊嶋謙二社長)とみる。SANを構築するユーザー企業の多くは各拠点に点在するデータを管理することが目的で、1オフィスしかないSMBであればSANを構築するメリットを見い出せないからだ。価格面を勘案して「NASに傾くケースが多い」(岩上由高・シニアアナリスト)という。となれば、ストレージ機器の販社にとって、SMBへのIP─SAN提案は“時期尚早”との見方もできる。
では、どうすべきか。ノークリサーチの岩上シニアアナリストは、「iSCSI採用のストレージ機器を単品で売っていくことが当面のビジネス」と、IP─SAN環境の土台作りが重要と指摘する。100万円を切った価格の安さをアピールし、IP─SANニーズが高まった段階で対応する“IP─SAN Ready”を広げるわけだ。IDC Japanでは、「SMBでは、ストレージの専門知識を十分に持った管理者がいるとは限らない。容易に管理できるツールなどを備えることで管理負荷の軽減を訴えるのが最適」と、ソフトウェアやサービスなどで導入意欲を湧かせる必要性を説く。
これまでサーバーとの“セット販売”のポジションだったストレージ機器をベースに、新領域に突入できる可能性が出てきた。その一つが“IP─SANの提案”ということになる。各メーカーからiSCSI採用のSMB向け製品が出揃っている今こそ、販社にとっては取り扱い製品を見直す機会でもある。(佐相彰彦●取材/文)