調整期は“体力の温存”に努めよ
経営環境の急変でSIerに戸惑いが走っている。米サブプライムローン問題に端を発する一連の経済異変が、国内金融業のみならず、製造業や流通業にまで及び始めたからだ。これまで比較的良好なペースで受注を維持してきた大手SIerは、人員の増強や会社規模の拡大を進めてきただけに、急激な需要減退が起こった場合、ユーザーのIT投資削減などの煽りをまともに食う危険性がある。
異変は、まず“震源地”に近い証券業向けのビジネスを多く抱える野村総合研究所(NRI)の業績伸び悩みに現れた。次いで、9月のリーマン・ブラザーズ破綻以降、「米経済の低迷と円高で輸出型の製造業が打撃を食らい、さらに国内消費マインドの冷え込みで流通業にもIT投資抑制の影響が出始めている」と、東芝ソリューションの梶川茂司社長は不安を隠さない。大手のみならず、中堅・中小企業向けのビジネスも変調する。上期(4-9月期)増収増益と好調だった富士通ビジネスシステムだが、9月の受注延期案件の約3割が景気減退からくる「投資抑制が占めるようになった」と懸念する。10月以降、商談維持に努めたことで失注は軽微にとどまる見込みだが、来期以降は混迷の度合いが深まる可能性は残ったままだ。
こうしたなか、派遣や外注を削減する動きがにわかに出始めている。ある中堅SIer幹部は、「ここにきて大手SIerに出向かせていたプログラマが大量に戻されている」といい、別のSIer幹部は「大手SIerは、下請けに対して1-2割のコスト削減を異口同音に唱える」と、厳しい状況を吐露する。派遣・下請けメインの中小SIerは苦しさが増す。
しかし、安易な外注・派遣切りは、SIerにとって諸刃の剣である。まず、外に出て行くキャッシュを減らすために内製化を進めるのは、給料の高い自社社員に付加価値のそれほど高くない仕事をさせることにつながる。一時的な改善は見込めても、トータルで見れば収益力を弱める。さらに、外注先であるビジネスパートナーとの関係が途切れれば、受注体力を著しく衰退させることになる。
日本システムディベロップメントは、ITバブル後の一時的な業績低迷に見舞われた。その際に一部ビジネスパートナーとの関係が途切れたことが、後の「業績回復のフェーズで苦労する原因になった」(冲中一郎社長)そうだ。開発パワーが必要なときに、頼れるパートナーが少なく、受注消化に手間取ることになったからだ。今は、中核となるビジネスパートナーとしっかり関係を築いて不況を乗り切る構えだ。NRIの藤沼彰久社長も、「発注先を絞り込むことはあっても、発注単価は下げない」と、中核パートナーを重視する。
景気には波があり、必ず回復する。調整期は“いかに体力を温存させるか”が重要な課題となる。大手SIer幹部は、「2009年内の景気回復は難しくとも、2010年には再び回復局面に差しかかる」と見る。再び拡大基調に戻ったとき、受注体力が衰えては競争に負ける。回復の兆しが見えた瞬間から、「不況時の2~3倍のスピード感をもって一気に受注拡大を進める」(日立情報システムズの原巖社長)ことができるほどの体力維持が求められる。(安藤章司●取材/文)