参入あり値下げありで熾烈な戦い
市場は6年ぶりの冷え込みに 初冬に入って、x86サーバー市場で有力メーカー各社の動きが慌しくなってきた。11月、NECは既存商品のラインアップ体系の見直しを図り、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)は同月下旬に値下げを断行。一方、新規参入者も現れた。レノボ・ジャパンが10月下旬に国内x86サーバー発売にこぎ着けたのだ。攻勢をかけるメーカー各社――。ハードウェアのなかでも堅調に推移していたx86サーバーだが、景気後退の煽りを受けて今年度は台数・金額ともにマイナス成長に転じる可能性が高い。メーカーの言動には苦しさも滲み出ている。(木村剛士●取材/文)
■市場は一転マイナスに 7~9月は9.9%減 x86サーバーの国内出荷金額は前年同期比9.9%減、5%以上のマイナス成長は23四半期ぶり──。
IT調査会社のIDC Japanが12月上旬に公表した今年第3四半期(7~9月)の最新データだ。ハードウェアのなかで唯一成長が見込めたx86サーバーも、秋口に入り景気後退の影響をモロに受けたことを如実に表している。5%以上のマイナスは実に約6年ぶり。同社の都築裕之・サーバーリサーチマネージャーは言う。「9月以降の金融危機の影響で、経済状況が悪化していることを考慮すると、今後は7~9月以上に影響を受けることになる」。状況はますます悪化するとの予測だ。
x86サーバーは、オープン化を指向するユーザー企業のニーズにはまり、単価の下落で買いやすくなったことも相まって、UNIXやメインフレーム(MF)から乗り換えられるハード基盤として採用が進んでいる。前出の都築マネージャーは、「2012年までに全サーバーの57%を占める」と予測している。しかし、成長分野であっても景気後退の波に呑まれてしまうと脆かった。
市場全体の成長は見込めなくても、メーカーはシェアを伸ばさなければならない。それだけに、初冬に入ってからのメーカーの動きは例年以上に激しい。
■有力2社は攻勢 新区分けに、値下げ敢行 12年連続でトップを死守するNEC。11月11日、同社の新技術・新製品を発表する最大の自社イベント「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO」で、既存モデルをデータセンター用と一般オフィス用に区分し、8年間使い続けたロゴマークの一新を大々的に発表した。「クラウドコンピューティング時代を意識し、多様なラインアップを分かりやすく把握してもらうため」(庄司信一・第二コンピュータ事業本部長)に、新たなマーケティングプランを走らせ始めたわけだ。マイナス成長に転じた市場環境のなか、「前年度比で10%増の成長」(庄司事業本部長)という挑戦的な目標を崩してはいない。
そんな中期的なビジョンはビジョンとして、現場マーケティング担当者はこう漏らす。「ロゴの変更やラインアップの区分けで、営業担当者が挨拶に行くことができる。今の景況では、なかなかユーザーが時間を取ってくれないだけに、些細なことかもしれないが、提案のとっかかりになる」。トップメーカーでも直近の数字獲りがいかに難しい状況かを物語るようなコメントだ。
2位の日本ヒューレット・パッカード(日本HP)は、NECよりも分かりやすい策に出た。11月27日、ブレードサーバーを含めたx86サーバーとオプション製品189モデルの値下げを断行したのだ。製品によっては、最大67%もの割引価格でグローバルパワーを生かした価格競争力を前面に押し出す。日本HPはとくに成長率が高いブレード型モデルの拡販に強気で、国内のブレード市場で50%以上のシェア獲得をぶち上げており、それに向けてさらに攻勢をかけるつもりだ。
ただ、サーバー担当幹部の顔色は冴えない。「7月ぐらいからかなり状況が厳しくなってきた。買い控えによる期ずれ案件や投資凍結が徐々に出始めている。国内の競合メーカーに比べて伸び率は高いかもしれないが、米本社の高い目標をクリアするのに、他社に比べてどうかなどと考えられない。必死だ」と漏らしている。
一方、メインフレームやUNIXなど全サーバーの国内金額シェアではトップの富士通も今年度はx86サーバーにかなり力を入れ始めている。「今年上期(4~9月)では昨年同期に比べ約2500台出荷台数を積み増した」(ノークリサーチ)模様。同社も11月に新施策を打った。今年4月にマイクロソフトが発表した新サーバーOS搭載機種を3モデルから8モデルに大幅拡充したのだ。富士通は、新OSに標準搭載される仮想化機能のメリットに他メーカーよりも早く着目していた。この下期も新サーバーOSと仮想化機能を前面に押し出し、シェアを伸ばそうとしている。
■新規参入のレノボ 販社からは厳しい指摘も 上位2社が新戦略を打ち出すなか、新たにこの市場に乗り込んだメーカーもいる。PCの世界シェア4位のレノボだ。
今年1月、中国本社はサーバー市場への参入を発表し10月29日、国内市場で具体的なモデルと販売施策を用意し正式に市場に進出してきた。まずはx86サーバーのなかでも売れ筋なローエンド分野の製品をラインアップ。中堅・中小企業(SMB)をメインターゲットに据え、低価格と手厚いサポート、そして標準バンドルする管理ソフトを武器にして、シェア獲得を目指す。
具体的なシェアの獲得目標は明示していないが、原田洋次・執行役員マーケティング・広報本部長は、「日本という独特の市場環境のなかで、かなり厳しい戦いになると感じている。ただ、パートナーの期待は大きい」と不安と自信が入り交じるコメントを述べる。その一方で、同社製PCを販売するパートナーの声を聞くと、「特徴がない。IBMに遠慮しているのか、もっと拡販活動を活発化してもらわないと…」と厳しい意見があるのも事実だ。
新規参入に値下げ、製品ラインの新区分けとさまざまな施策が交錯し、厳しい環境下でメーカーの熾烈な市場争いがこれまで以上に熱を帯び始めている。ただ、その胸中にあるのは攻勢をかけるというよりも、厳しい環境を乗り越えたいという思いが強いようだ。これまでの成長市場が曲がり角を迎えている状況を映し出している。