ユーザーにサービス利用が浸透

導入の簡便さでパートナーにもメリット

　セキュリティの分野では、早い段階からSaaSによる提供が始まっている。IT管理者がいない中小企業にとって、手間なくセキュリティを導入できることは大きなメリットになる。メーカーにとってもSaaSが他社にない差別化要素の一つになっているようだ。各社のサービス提供の動きを追った。（鍋島蓉子●取材／文）

■IT管理者不在の企業向け　手間不要が最大の“売り”

　中小企業にはIT管理者がいない場合も多い。アンチウイルスなど、毎年の更新作業が発生するセキュリティ対策をSaaSで提供することにより、ユーザーは手間なく、セキュリティシステムを導入することができる。

　マカフィーやエフセキュアでは、早い段階からSaaSビジネスを展開してきた。エフセキュア（桜田仁隆代表取締役）では、中小企業向けに提供してきたセキュリティソリューション「F─Secure ビジネスセキュリティ」を「エフセキュア プロテクション サービス ビジネス」と名前を変えて、中小企業に対して本格的に提供を開始した。グローバルでは今年前半ごろから提供を開始したもので、セキュリティソフトと管理ポータルを含めたSaaS型のセキュリティソリューションとして提供する。アンチウイルスやファイアウォール、侵入防止、アプリケーション制御などの機能を提供するもので、ウェブポータルから簡単な操作でセキュリティ対策を実施できる。

　マカフィー（加藤孝博社長）のSaaSビジネスも立ち上がりは早かった。同社では、「McAfee VirusScan plus AntiSpyware」「McAfee Managed Total Protection」など、何度か名前を変更しながら提供を続けてきた。現在では全業種に「McAfee Total Protection Service（ToPS Service）」としてSaaSを導入している。加藤孝博社長は「クラウドコンピューティングテクノロジーとして、SaaSなどの流れが加速している。そうした状況を背景に中小企業を中心として、エンドユーザーから検討したいという商談が非常に増えている」と話す。ユーザーのなかには、幼稚園などPCが3台だけのところや、官公庁の出先などにも導入されているという。

　加藤社長は「SaaS型で提供すれば、ユーザーが管理する必要がなくなる。定義ファイルもSaaSで提供するので手間がかからない。来年も引き続き拡販できると思う」と話した。

　ここにきて、新しくサービス展開を計画しているベンダーも出ている。ウェブセンス・ジャパンは、ウェブフィルタリングのメーカーとして、世界的に高いシェアを持っている。今後はDLP（情報漏えい対策）や電子メールソリューションも持つメーカーとして活躍の場を広げようとしている。提供するソリューションの一つとして、電子メールのホステッドサービスなども開始する計画だ。公家尊裕代表取締役は会見の場で、「今はコスト削減のために、UTMなどを導入している企業が多いと思う。今後はローエンドの企業に是非サービスを使ってもらいたい」と話している。

■他社との差別化にウェブサービス　パートナービジネスの一助にも

　一方、SaaSでの提供を他社との差別化要素として拡販できると考えているベンダーもある。ウェブからの脅威は増え続けているが、電子メールを使った巧妙な手口など、複合的な脅威が増えている。トレンドマイクロ（エバ・チェンCEO）では、こうした複合的な脅威に対し、電子メールやウェブを評価し、侵入を防ぐレピュテーションのサービスを提供している。大三川彰彦日本代表は「従来のパターンファイルだけでなく、いまはE─mail Reputation Servicesとか、InterScan Massaging Hosted Securityなど、ウェブのセキュリティサービスが今年後半から非常に注目されている」と話す。

　同社は今秋、Trend Micro Smart Protection Networkを来年3月から稼働させると発表した。電子メールとウェブとファイルの三つのレピュテーションデータベースを協調動作させることで、複合的な脅威を防ぐものだ。すでにE─mail Reputation Servicesなどについては提供を開始していて、来年にファイルレピュテーションをリリースし、Smart Protection Networkを本格的に展開する。大三川日本代表は「これは、他社にない非常に強力なアドバンテージになる。他社製品を使っているユーザーに対しても、レピュテーション機能だけを提供できる」と自信をみせる。

　セキュリティ商材は一度導入するとサーバーの入れ替え、クライアントのインストールなど、リプレースは大変な作業となっていた。トレンドマイクロ自体のシェアが高く、更新ビジネスだけでは事業を拡大していけなくなっているなか、Smart Protection Networkが新たなビジネス展開の一助となると考えている。「他社の製品を使用中のユーザー企業にも併用して使ってもらえる。パートナーもすごく期待してくれている」と手ごたえを感じているようだ。

　ウェブ経由のサービス提供が進展するなか、セキュリティのSaaS提供はますます広がりをみせそうだ。