キヤノンITソリューションズ(キヤノンITS、武井尭社長)は、グループ再編やM&Aを通じてサービス事業を拡大させる。ソフト開発には強い同社だが、データセンター(DC)を軸としたサービスビジネスの増強は課題となっていた。この1月にネットワークに強いグループ会社を合併し、サービス商材の開発を視野に入れたマーケティング機能を強化。サービス事業の本格的な立ち上げに乗り出した。向こう3~4年のうちに売上高に占めるサービス事業の比率を25~30%に高める。
サービス事業の拡大を急ピッチで進めるキヤノンITSは、グループ再編やM&Aを積極的に展開する。経済情勢が厳しさを増すなか、とりわけ製造業の大規模な基幹業務システムの開発プロジェクトが減少する可能性があると、同社では見ている。そこでコスト削減効果が大きく、不況に強いサービス事業を拡充することで逆境を克服する構え。野村総合研究所ではサービス事業の基盤となる国内DC市場が年間平均で5.8%伸び、2013年度には1兆3500億円に達すると予測。中堅企業では運用コストの削減に向け、基幹業務システムを一括してアウトソーシングする需要が高まっており、こうした需要を掴む。
キヤノンITSは、金融業や製造業の基幹業務システムの構築には強いものの、サービス事業の拡充は長年の課題になっていた。同社では2008年9月、沖縄・名護市に約500ラック相当のDC設備を持つSIer、ビックニイウス(現クオリサイトテクノロジーズ)をグループ化したのに続き、今年1月にはグループ企業でネットワークやDC事業に強いキヤノンネットワークコミュニケーションズと合併。さらに親会社のキヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)の商品企画担当約50人を迎え入れ、商材開発の機能を大幅に強化した。
昨年度(08年12月期)の連結売上高に占めるサービス事業の比率は約5%と低水準。同事業を登山にたとえると「やっと2合目に差しかかった程度」(武井尭社長)と、依然として道半ばだ。今回の再編やM&Aの効果を最大限に発揮していくことで、向こう3~4年のうちに同比率を25~30%へ高める。
ただし、課題もある。クオリサイトのDC設備はまだ余裕があるものの、キヤノンネットワークコミュニケーションズの約120ラック相当の都内DCはフル稼働に近い状態。需要が多い都心部に近接したロケーションで、新たにDCを拡充する必要に迫られることも考えられる。また、クラウドコンピューティングやSaaSなど具体的な商材の品揃えも不足気味。キヤノンITSでは、さらなるM&Aを視野に入れつつDC基盤の整備を進めると同時に、クラウド・SaaS型の商材の充実を急ぐ。
キヤノンMJグループは、グループのITソリューション事業全体の年商を現状の2倍に近い3000億円に高める「ITS3000計画」を推進しており、この実現に「サービス事業の強化は必須」。キヤノンMJグループのITソリューション分野の中核企業であるキヤノンITSが率先してサービス事業を立ち上げる。キヤノンITSでは、キヤノンネットワークコミュニケーションズとの合併やクオリサイトのグループ化で今年度(09年12月期)年商100億円規模の増収効果が見込める。主力のSI事業に加えて、これまで弱かったサービス事業を伸ばすことで、向こう1~2年で連結売上高を1000億円に拡大させる方針だ。

販売チャネルは、自社グループによる直販に加えて、キヤノンMJグループの販路の活用も検討する。全国200か所余りに拠点を展開するキヤノンシステムアンドサポート(キヤノンS&S)は、中堅・中小企業向けの有力な販売チャネルになり得る。現状ではITソリューション商材の販売体制の整備がまだ十分できておらず、グループ内の調整が必要。クラウドやSaaSなどサービス型の商材は、初期導入コストを抑えられ、個別のシステム開発も少なくて済む。本来なら中堅・中小向けに売りやすい商材である。キヤノンITSでは、「中堅・中小企業向けに売りやすいサービス商材づくり」も視野に入れることで、グループ力を生かした販路の開拓に前向きに取り組む。
モノ売りからサービス型へ サービス事業、拡大の一途
大手SIerが触手伸ばす
大手SIerが相次いでサービス事業を拡充している。日立ソフトウェアエンジニアリングは、アウトソーシングを含むサービス事業の連結売上高構成比を向こう3年の間で10ポイント上乗せし、25%にまで高める考えを示す。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は2008年10月に最新鋭のデータセンター(DC)を都内に開設するなどサービス事業の基盤強化を推進。シーイーシーは今年2月に総額90億円を投じて国内最高レベルの冗長性を持つTier4のDCを開設する。DCはサービス事業を拡大させるインフラとして機能させる。
サービス事業を強化する背景には、設備投資の抑制で、大型のソフトウェア開発プロジェクトの先送りや縮小が頻発し、ハードウェアなどの製品が売れにくくなっている事情が挙げられる。コスト削減を優先するユーザー企業はソフトやハードを所有する従来の形態から、ネットワーク越しにコンピュータリソースを利用する形態へ、より一段と比重を移しつつある。大手SIerはこうしたユーザーニーズを敏感に察知し、サービス型商材の拡充を急ピッチで進めているのだ。
サービス化へのシフトは、SIerだけではない。必要なときに、必要なだけITリソースを供給する“オンデマンドコンピューティング”の考え方を推し進めた日本IBMは、過去10年にわたってソフト・サービスへシフトしてきた。90年代末まで同社の売上高に占めるハードウェア販売の比率は4割余りあったが、直近では13%まで激減。パソコンやプリンタ、HDDなど事業売却を進め、かつソフト・サービスビジネスを意欲的に拡大してきた。「ビジネスポートフォリオを意識的に変えてきた」(大歳卓麻会長)。顧客の経営課題を解決するには、ハードウェアなど製品販売に依存していては立ち行かなくなる──。未来をそう予見したIBMグループのしたたかな戦略がうかがい知れる。
経済状況が悪化するなかで、投資負担を軽減し、迅速確実にコストを削減できるIT商材がユーザー企業から求められている。ハードやスクラッチによるソフト開発など重厚長大な従来型の商材ではなく、小回りがきき、負担感が少ないアウトソーシングやクラウド・SaaS型のサービスビジネスが勝ち残りのカギになりそうだ。