国内の通信回線には、NGN(次世代ネットワーク網)や「クラウドコンピューティング」などの進展でWeb利用の増大が予想され、トラフィックを最適化する必要性が高まってきた。特に、インターネット・サービス・プロバイダ(ISP)の回線は、P2Pや動画配信、音楽ダウンロードなどユーザーの利用帯域が急拡大。国内では、通信が「輻輳(ふくそう)状態」に陥り遅延を招くことを制御する「帯域管理/制御装置」が、ISP向けの市場として急成長中だ。ネットワーク販社のなかには、ISPに限らず、SaaSなど企業向けWebアプリケーションが成長すると見て、ITベンダーにも照準を向ける動きが出てきた。
ネット販社側
SIer販路の「地盤固め」
WANアプリ向け需要活発で ワイヤレスネットワーク機器販売のシーティーシー・エスピー(CTCSP)は、ISPを中心にCATV(有線放送サービス)を含めたプロバイダにフォーカスして「帯域管理装置」を販売展開中だ。片岡幸嗣・営業推進部2課長は、「P2Pファイル交換ソフトウェアの利用者が急増してISPのバックボーンが膨らんでいる」とみており、ISPが利用者向けサービスで競合と差別化を図るうえで帯域管理装置が必須になるとその理由を説明する。
CTCSPによればISPやCATVトラフィックの50~60%はP2P利用者という。P2P利用者の帯域幅を適切に制限し、分析ツールでトラフィックを可視化することでサービス向上や導線を適切に運用でき、コスト削減に繋がるとの「営業トーク」でISPを攻めている。
日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)など通信事業者4団体は2008年5月、P2PなどISP帯域を占有するヘビーユーザーに対し、帯域制御措置を講じる「運用基準に関するガイドライン」を策定、公表した。ここでいうISPが行う「帯域制御」は例外的状況下で“強制執行”することが基本原則。措置をする場合には、他のユーザーの円滑利用を妨げる裏付けデータが必要で、こうしたニーズに支えられて帯域制御装置の需要拡大の兆しが見えつつあるのだ。
CTCSPの対抗勢力であるNTTグループで通信技術的中核ベンダーのNTTアドバンステクノロジ(NTT─AT)は、同装置の販路の一つとしてISP向け販売を本格化している。代理販売する某メーカーの「帯域制御装置」で従来の「1Gバイト」に加え「10Gバイト」対応機種が2月にも投入されるのを機に、ISP向けにリプレース需要の獲得を狙う。NTT─ATの須合和成・ICTプロダクツビジネスユニット主幹担当部長は「上位レイヤ(10Gバイト)の帯域制御装置が必要との声が多く上がってくる。ISP側でサービスを付加しようとすると、従来機器に『増設』するのではなく、『リプレース』する必要があるというのだ」と、最大の関心事を掴み攻勢をかける。
NTT─ATはISPに限らず、全国規模で展開する中堅・大手企業やデータセンター向けに同装置を拡販する施策を着々と展開している。PBX(構内電話交換機)のIP化が進み、「最近になって利用が増えているテレビ会議やVoIP(音声データを送受信する技術)通信に対するユーザー企業の関心が高まっている」(須合主幹担当部長)。混雑時間などの状況に応じて通信制御する要望が出てきたというわけだ。
ネットワーク機器販売の東京エレクトロンデバイスは、「帯域管理/制御装置」を通信キャリアを中心として販売を拡大する一方、企業向けにも手を伸ばし始めている。同社の小林浩樹・ソリューション開発グループリーダーは「金融業界に導入が進む期待をもっていた。例えば、オンラインバンキングやカード決済関連に同装置を入れ、SSL(データ暗号化)の暗号化処理を適正化するSSLターミネーションなどと一緒に売ることを考えていた」。しかし「金融不安」で若干当てが外れた。
金融業界向けは、いったんペンディングするが、企業自らEコマース(EC)サイトを立ち上げる顧客向けに浸透しつつあり、ECサイト構築を手がける大手開発系SIerなどと手を組み導入を促進する。
ネット機器メーカー側
ISPを中心に「攻め」
企業向けも着々浸透 メーカー側でも一般企業を対象にした「帯域管理/制御装置」の新規顧客開拓へ向けた動きを活発化させている。ユーザー企業によるサーバーやストレージなどの一拠点集中に伴うWAN環境の構築やWANアプリケーション配信を管理するニーズが顕在化しているため「販路の基盤固め」を進めているのだ。
パケッティアの買収で「帯域制御」の分野にまでビジネス領域を広げることになったブルーコートシステムズは、販売代理店制度の見直しを推進している。ブルーコートとパケッティア双方の製品を売る販売代理店が少ないためだ。まずは、社内の営業組織を再編。販売代理店に特化した営業担当者を配置した。
シスコシステムズでは、ネットワークインフラを「オール・シスコブランド」に染め上げる戦略を進めているが、「帯域制御装置」の提供もその一環だ。
エンタープライズ&コマーシャル事業を統括する平井康文・副社長は「この戦略を遂行するためには、既存販売パートナーに、いかに多くの製品を扱ってもらうかがカギとなる」と課題解決に余念がない。現段階で大々的なアプローチは行っていないが、SIerやNIerなどと個別にパートナーシップの関係性を深め、販売代理店大手のネットワンシステムズがシスコ製品中心の販売に力を注ぐことを表明している。
F5ネットワークスジャパンでは、競合他社の先鞭を切ってSIerを販売代理店として確保した。Webアプリケーションをデリバリ(配信)する環境を構築する必要性が高まり、大規模システム構築を得意とするベンダーが同社製品を売りやすいとの判断からだ。
調査会社「IDC Japan」によると、「帯域管理/制御装置」を含めた国内WANアプリケーション配信市場は、08年に前年比25.7%増の110億円に達する見込み。また、同市場の12年までの年平均成長率を10.6%と予測している。未曾有の経済不況で企業のIT投資は鈍る傾向が強まっている。その悪環境の中でIT業界に「希望の光」を差すプロダクトとして同装置への期待は高まる。(今回の「特別企画」は週刊BCN編集部・佐相彰彦、谷畑良胤が担当)