「開発性能」がカギ握る
企業の基幹システムなど重要な業務システムにWebアプリケーションの採用が増え、アプリケーション(AP)・サーバーの必要性が高まっている。その傾向は中堅・大企業に限らず、レガシーシステムを保有する中小企業では、運用・保守料を低減するためにオープン化が進みつつあり、このシステム開発に際してAPサーバーの用途が増大している。
メーカー側
「再攻勢」を昨秋から開始チャネル制しトップ争いに決着 アプリケーション(AP)・サーバーを中心としたAP基盤ソフト市場は現在、2~3年前に比べて成長は鈍化したといわれる。ただ、そんな「成熟マーケット」ながらメーカーの動きは昨秋に入ってから慌しくなった。
APサーバー市場のメーカー争いは「3強」状態。富士通、日本IBM、そして日立製作所が僅差で争う三つ巴だ(図参照)。1位と3位の差は3.9ポイントで、販売力の強いSIerが扱う製品を変更すれば、いつトップが入れ替わっても不思議ではない。
昨秋、日本IBMは約4年ぶり、日立は3年ぶりに新版を投入。トップの座を射止めようと攻勢をかけた。日立の林重年・アプリケーション基盤ソフトウェア本部本部長は、新版発表当時に「トップが射程圏内に入っている」と強気に発言し、一気に上位2社を抜き去ろうと目論んでいた。
APサーバーの拡販にとって重要なのは、いかに広く売る体制を整えるかだ。AP基盤ソフトは、各社とも技術や機能が似たり寄ったりな状況で、「APサーバー自体の機能強化だけでは他社との差別化は難しくなった」(林本部長)。極端にいえば、製品だけでみればどのメーカーでも同じ。シェアを伸ばすためには、新たな販社の取り込みが重要で、製品で優位性を示すことができないのであれば、販社に対する支援内容で差をつけるしかない。
ここで目新しい動きをみせるのが日立だ。日立は、事例や技術情報の提供、専任スタッフを組織した営業やSEをサポート。技術分野では、販社のSI(システム構築)効率化のために、設計と構築に必要な情報を自動生成するツール「SIナビ」も用意した。パートナー同士で事例研究や共通の課題を共有化できるコミュニティも作った。「販社サポートこそが付加価値」というわけだ。
一方、4位以下で動向が要注目なのが日本BEAシステムズを買収した日本オラクル。オラクルが舵を切ることで、シェアにどう影響するか。OSSのAPサーバー群を販売するレッドハットの廣川裕司社長は、昨秋に一部製品で日本独自のタイトルを用意した理由について「BEAのエントリ製品からの乗り換え需要を意識している」と話しており、チャンスとみるベンダーもいる。だが、当の日本オラクルは早々と低価格でBEAのAPサーバーを統合した新版を出荷開始。開発工程や運用管理工程などSIerの手間を省く工夫をこらし、レッドハットなどオープンソース陣営の気勢をそぐ戦略を打ち出した。
ここ数年メーカーの順位変動はない。ただ、08年後半に動き始めたメーカーの戦略次第では、順位が変動する可能性をはらんでいる。
SIer側
SOA実現基盤として注目度UP低コスト開発に利用効果大 アプリケーション(AP)・サーバーはこれまで、EC(電子商取引)サイトやイントラ基盤など、Webシステムを使いデータベース・アクセスといった一連のプロセスを効率よく処理する「Webアプリケーション基盤」として利用されてきた。しかし最近は、生産管理システムなど基幹系の重要な業務システムにWebアプリケーションの導入が加速。APサーバーは、企業システムのSOA(サービス指向アーキテクチャ)を実現する重要な基盤へと役割を変えてきた。
このため、企業向けのシステム開発を手がけるSIerは、開発性能などに優れたAPサーバーを選択し短納期・開発をして他社との差異化を図ろうと躍起になっている。オープン系ITシステム基盤開発を行うNTTデータグループのSIer、NTTデータ先端技術は複数メーカーのAPサーバーを中心にNTTデータの開発フレームワーク「TERASOLUNA(テラソルナ)」などを生かし、ユーザー企業側のIT投資を最小限に抑え、短期開発・導入することに磨きをかけている。
同社の徳永健治・インテグレーションビジネスユニット副ビジネスユニット長は、2年ほど前からこんな案件が増えつつあると語る。「オフコンやメインフレームを抱える中小企業では、運用・保守コストが『重荷』になり、このコストを削減するためにオープン化する道を選択する傾向が増えた」と言い、年間IT投資のうち6~7割を占めるといわれる運用・保守料を削減するため、「ダウンサイジング」に対するニーズが中小企業に広がっていると判断している。
しかし、昨年末からの経済不況の影響を受け、「メインフレームの移行コストを捻出できない」中小企業も多く、段階的にWebアプリケーションに移行するシステム要件が多くなった。この際、汎用的なパッケージソフトを導入する例もあるが、個々の企業特有の基幹システムに関しては、人月単価を過重にかけず最大限に期間を短くし性能と信頼性の高いシステム開発を行うことが求められる。そこで、Webアプリケーションの「FullGCレスメモリー管理」(メモリ管理機能「GC」に起因する問題を解消)機能などを搭載したAPサーバーの“出番”が回ってきたわけだ。
例えば、クライアント側において「JavaScript」など動的なコンテンツを利用する場合、Webブラウザ描画に遅延が発生し時間を要することで、利用者の使い勝手を悪くする。しかし「こうしたボトルネックの解析や解決には、熟練したSEの経験が必要だった」(徳永副ビジネスユニット長)と、APサーバーの機能充実で容易になりつつあると語る。
この先、企業の基幹システムを含む業務システムの「Webアプリケーション化」が進むのは必至。調査会社IDC Japanが2006年に発表したところによると、同製品の年率成長率は5.1%だが、この後に需要が鈍化し2~3%増程度といわれる。しかし、SIerから得る情報では、この数値以上に伸び率が高まる可能性を秘めている 。