2月開始、水谷社長が公表
会計ソフトウェアのシェア上位ベンダーで国内初の「SaaSサービス」を開始した業務ソフト大手のピー・シー・エー(PCA、水谷学社長)は、イニシャルコスト(初期費用)ゼロの新サービスを2月から提供することを明らかにした。これまでは、初期費用としてソフト購入費やスターターキットに約80万円が必要だった。これを「ゼロ」にして、月額の従量課金だけで収入を得る仕組みに変更。同業他社が注視する“SaaS先駆者”が大きく舵を切ったことで、中小企業向けの会計など基幹システムのSaaS普及に弾みがつきそうだ。
大々的に広告展開する同社のSaaSサービス「PCA for SaaS」は、他社データセンターのハウジング方式によって同社が運営する形で展開中。導入には、ソフトウェア購入費(最大72万円)やスターターキット(10万円)など、初期投資に82万円が必要だった。いままでの「クライアント/サーバー型」や「スタンドアロン型」の同社ソフトをパートナー販社がユーザー企業に導入した際に得る「初期インセンティブ」方式を組み入れたSaaS型の「再販モデル」として注目を集めた。
しかし、2月から提供する会計版のSaaS「PCA会計9V.2 for SaaSイニシャル“0”プラン」は、従来版の初期投資を「ゼロ」にする。つまり「電気やガスのように」システムを利用できるSaaS本来の提供方式へ移行したことになる。水谷社長は「この不況でIT投資が鈍っている。初期投資は中小企業に大きな障壁。販社にとっては、苦しいなかで大量販売できるうえに安定的にストック(利用料と保守料)を得られる仕組みになる」ことを説明し、パートナーの理解を得ることができたとしている。これにより、拡販に弾みをつける基盤を整えたことになる。
中小企業向けの基幹システム製品を開発・販売するベンダーが自社運営のSaaSサービスをユーザーの初期投資ゼロで展開するのは初。競合のオービックビジネスコンサルタント(OBC)は中小上位から中堅企業を対象にした業務ソフト「奉行V ERP」を、NECネクサソリューションズからイニシャルコスト無しで提供するが「自社運営」ではない。
PCAは昨年開始したSaaSを「160社限定」で売り出した。すでに完売し「システムパフォーマンスが万全であることが確認できた」(水谷社長)と自信を示す。同社と保守契約を結ぶ既存顧客(約17万5000ユーザー)の「半数をSaaS化する」(同)とした“公約”実現に向け、システムの大幅な増強を敢行する計画だ。
国内のSaaSは、多くの販社へ初期インセンティブを提供する「再販モデル」が足かせとなり普及に戸惑うと予想された。それだけに、PCAの動きは“SaaSの実験台”とも言われ注視されてきた。ここにきて同社が「イニシャルゼロ」へ移行することは、国内の「SaaS再販モデル」が新たな普及フェーズに入った証といえる。(谷畑良胤)