高度IT人材への関心が高まっている。この4月に行われる情報処理推進機構(IPA)の情報処理技術者試験の応募者数が7年ぶりに増加に転じた。不況で仕事が減った分、自らのスキルアップに時間を使う機運が高まったことに加え、今回から技量のレベルを7段階で示すITスキル標準(ITSS)と情報処理試験が連動するようになったこともプラスに作用する。ITSSは、大手SIerではすでに6割が導入する一方、中小SIerでの活用が遅れるなど課題もある。
情報処理試験の応募増加
不況の真っ只中の今だからこそ、人材育成に力を入れる──。東芝ソリューションや三菱総研DCSなど大手SIerは早々とITSSを自社に導入。人事評価制度と一体的に運用することで技術者のスキルアップやモチベーションの向上につなげている。IT業界で働く個人レベルでも情報処理技術者試験を通じて、ITSSに基づくスキルアップを図る動きが試験への応募数を押上げる。
ただ、大手と中小SIerではITSSの利用率に差がある。IPAによる最新の「IT人材市場動向調査」によれば、従業員数1001人以上のSIerでは60.5%がITSSを導入導入しているが、101~300人では30.7%、100人以下では17.3%と規模が小さくなればなるほど利用率が低下。一方、人材需要の動向を見ると、技術者の頭数が足りないと感じるSIerは、前年度の28.3%から16.2%へ大幅減少。反面で高度なIT技術者の不足感は前年度23.5%から32.4%へと高まっている。つまり、人材は量から質への需要の変化が起こっており、不況に勝ち残るには高度IT技術者を増やす必要があるわけだ。
ITSSは大手でも適用できるように、職種11、専門分野35、レベル7段階と非常に細かく作り込まれている。この細かさが中小SIerが導入するうえでのハードルの一つになっている。ITSSを導入する際は自社に必要なスキルセットをITSSの分類のなかから抜き出して、自社に最適なスキル体系を構築する必要がある。「中小SIerはこのスキルセットのカスタマイズする部分でつまずくケースがみられる」(IPAの田中久也・IT人材育成本部長)という。
外注費削減などで、中小SIerは不況のしわ寄せを食らう。だからこそ高度IT技術者の育成を通じてコアコンピタンスを強化する必要がある。IPAでは、実証実験などを通じて中小SIerへの普及施策を研究するが、まだ有効な手立てを打ち出せずにいる。SI業界の底上げを図る意味でも、例えば“ITSS導入コンサルティング”など民間活力を生かしたサービス拡充が求められる。(安藤章司)
| 人材像を明確に 中小SIerは、特定の技術や業種・業態に特化することで、企業規模の小ささを補っている。だが、ITSSは標準的なスキルはカバーできても、特化した業種・業態には対応していない。こうしたことも、中小SIerでITSSの導入時に必要なカスタマイズをより難しいものにしている。ITSSに詳しい三菱総合研究所(MRI)情報技術研究センターの西山聡・主席研究員は、「まずは自社に必要な人材像を明確化し、ITSSをカスタマイズしていく必要がある」とアドバイスする。いきなり業種カットの切り口で入るのではなく、必要とされる人材像を明確化するところから始めることが大切というわけだ。 |