経営革新に向けた提案がカギ
原価管理や工程管理などに関連するシステムやサービスの需要が高まってきた。ユーザー企業が社内業務の可視化によるコスト削減や業務効率化を進めることに加え、業績伸長に向けた“攻めの戦略”を進めようとしているためだ。とくに、SMB(中堅・中小企業)市場で顕著に現われている。ITベンダーにとっては、ユーザー企業の経営革新を含めたシステム提案が必要といえそうだ。必要なIT投資は継続
不況下で生き残りへ
調査会社のノークリサーチが発表したレポート「ノーク伊嶋のSMB短観09年冬版」によれば、SMBのIT投資意欲は下がっているものの、必要なシステムに関しては継続して投資する意向を示しているという結果が出ている。
業種によって違いがあるものの、原価や販売、生産、プロジェクトなどの管理を改善するためにソフトやサービスを導入する傾向が目立つ(図参照)。製造業で生産管理や調達・在庫システム改善、卸売業や小売業で営業・販売管理システム改善といった具合だ。同レポートは、年商5億円以上500億円未満のITユーザー企業を対象としたアンケートをもとに集計したものである。
SMBが「管理に関する改善の意識」を強めていることについて、ノークリサーチの岩上由高シニアアナリストは、「日本を含めて世界経済が不況下に陥っているとはいえ、業績改善に向けた投資意欲がないわけではないからだ」としている。このような調査結果を踏まえると、多くのSMBはこの不況をはねのけて生き残ろうと模索している姿が垣間見える。ノークリサーチも、「ITベンダーにとっては、こうしたSMBのニーズを的確に捉えてシステムやサービスを提案していくべきだろう」とアドバイスする。
アプローチの方法は三つ
SaaSによる需要喚起も
企業が原価や工程、販売、生産などを管理するシステムやサービスを導入するのは、業務を効率化することにより、コスト削減だけでなく経営革新を図ろうとしているからだ。では、ITベンダーにとって最適な提案とはどのようなものか。「SMB向け管理関連のシステム提案として、アプローチには大きく分けて三つの方法がある」と、岩上シニアアナリストは指摘する。
一つはコスト削減を前面に押し出した提案だ。「徹底的に削減策を追求している製造業を対象にアプローチしていくことが、受注獲得の近道ではないか」とみている。二つめは工事進行基準に対応することを訴える提案。ソフト開発にもこの会計基準を適用しなければならないことから、「IT業界でニーズが高まっている」とみる。三つめは国際会計基準をベースとした提案だ。これも法令遵守の観点から、「海外展開もしくは海外との取引がある企業に需要が眠っている」としている。
問題は、ユーザー企業にとって、こうしたアプローチがコスト削減やコンプライアンス対応には効果があるとしても、業績向上のための直接的な要因にはなりにくいということだ。そのため、「ITベンダーは、初期コストの負担が少ないSaaS形態でサービスを提供している」という。月払い方式の低料金を売りとして、新規顧客を開拓するためのきっかけを作る。そして、次のステップで経営革新に向けたシステムやサービスの導入を促していく方法がSMBには適しているといえそうだ。
基幹系との連携に期待
ユーザーとの関係強化へ
低料金で提供できるSaaSを武器に、ITベンダーがユーザー企業を開拓するうえで重要になってくるのが、“攻めの戦略”などといった次のステップを促す策である。
安易にSaaSを導入すると、ユーザー企業側では既存の基幹系を含めてシステム連携がとりにくくなる恐れがある。その結果、原価や工程などの管理システムによって収集したデータを業績伸長のために有効活用できないといった問題が出てくる。これを解消するためには、直近のコストを抑えるSaaSを提供しながら、既存システムや将来的に必要となるシステムなどとの連携を視野に入れて提案しなければならない。また、これまでと全く異なったユーザーインタフェースのシステムやサービスを提供することで生じる問題もある。ユーザー企業の現場スタッフが業務の進捗状況などを入力することが負担と感じるケースがそれだ。こうしたリスクを回避したシステムやサービスの提供がユーザー企業と良好な関係を保つことにつながる。
最近では、原価管理と営業支援を連携させ、原価最適化と営業成績向上の両輪を改善できるSaaSなども出てきている。ほかにも、社内業務の可視化を行いながら社員のスキルアップにつなげるシステムやサービスなども登場している。原価や工程などに関連したシステムやサービスを販売するベンダーにとっては、この不況下だからこそユーザー企業の声をしっかりと吸い上げて、最適なソリューションを提供していくことが需要を掘り起こすカギとなる。