元請けのSIerやユーザー企業などが協力ソフト開発会社などに仕事を発注する場合、派遣か請負のどちらの契約形態にすべきか、揺れている。自動車や電機などの製造業は、受注減で派遣契約を相次いで打ち切り、請負や期間社員に切り替える動きを加速させている。一方、情報サービス産業では、派遣から請負に切り替えるどころか、派遣に切り替える“逆流現象”が起きているようだ。
製造業の相次ぐ“派遣切り”が社会的な批判を浴びるなか、情報サービス産業では依然として“派遣活用へのシフト”の流れが続いているという。今年3月末、個人事業主を主体とするソフト開発の首都圏コンピュータ技術者(真杉幸市社長)は、「現下の派遣・請負問題と企業行動」と題した緊急セミナーを開催。「働く人が派遣に追い込まれている」(真杉社長)と、危機感を顕わにする。派遣ではコスト構造が丸わかりで、技術的な差別化も難しい。コアコンピタンスを伸ばす戦略的な経営もままならないからだ。
だが、発注者側である元請けの大手SIerなどには「派遣のほうが偽装請負などの問題が起きにくい」(大手SIer幹部)と、請負よりも派遣を好む傾向が一部に見られる。製造業では、不況による“派遣切り”問題が噴出して社会問題となった。厚生労働省の調べでは2008年10月から今年6月まで12万人余りの派遣労働者が雇い止めになる見通しで、業種別ではうち約98%を製造業が占める。同期間で雇い止めになる非正規労働者は約19万2000人の見込みで、うち派遣が65.3%、期間社員が20.4%、請負が8.1%、その他6.2%と、派遣が仕事を失う比率が高い。
情報サービス産業では、働く人の8%強に相当する約7万人弱が派遣契約だと推計されている。現時点では厳しさを増すなかでも、「大規模な派遣の雇い止めは起こっていない」(情報サービス産業協会=JISA)と、影響は小さいようだ。だが、「本当に厳くなるのは今期上期(09年4-9月期)」(JISAの浜口友一会長)という見方には説得力がある。過去に偽装請負問題で苦い思いをした発注元のSIerが、請負に慎重になっている面があるのは否めない。労働問題に詳しい安西愈弁護士は、「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」と、現状を喩える。国は一連の派遣問題を重視しており、今後、派遣から請負、あるいは直接雇用への流れが強まる可能性がある。情報サービス産業もこうした流れを真剣に考える時期にきているのかもしれない。(安藤章司)