クラウド型の情報共有サービスに本格参入するマイクロソフト。ライバルのグーグルが開発する「Google Appsとはまったく違うフルレンジの機能を提供する」(米マイクロソフトのスティーブン・エロップ・ビジネス部門担当プレジデント)と、闘志をむき出しにする。マイクロソフトのクラウド型サービス「Online Services」とグーグルの「Google Apps」の二つを、売り手であるSIerはどう見ているのか。「実績」や「価格」などの面で検証した。
売り手にとって気になるのは、クラウド型サービスの信頼性。大切な顧客に迷惑はかけられないというのがSIerの本音だ。これについてマイクロソフトは、「エンタープライズで豊富な実績がある」(エロップ・ビジネス部門担当プレジデント)と胸を張る。確かにマイクロソフトは、グーグルとは比べものにならないほど同分野で実績をもっている。販売パートナーとの結びつきも強く、4月中に始めるOnline Services 第一弾の「BPOS(Business Productivity Online Suite)」では、大塚商会や内田洋行など有力パートナーを18社も集めた。
一方、グーグルは、「マイクロソフトはクラウドの実績がない」(グーグル幹部)と指摘。確かにクラウドコンピューティングの先駆者はグーグルだ。検索、Gmail、ドキュメントなど常に業界をリードした実績がある。Google Appsのある販売パートナーは、「誰でも自由に使えるグーグルは、世界中の数億人単位で動作検証が常になされているようなもの」と、太鼓判を押す。かたや企業向けビジネスでの実績なし、一方はクラウドの実績に乏しいと、まさに「実績のないのはお互いさま」(別のSIer幹部)なのだ。
Google Appsは100アカウント以上で年間1アカウント当たり約6000円なのに対して、BPOSは同約1万8800円。サービス内容は若干違うものの、価格はマイクロソフトのほうがざっと3倍高い。販売パートナーが得る粗利も3倍──とはいかず、「両社ともライセンス販売だけでは満足できる粗利はとても得られない」(SIer関係者)と、辛い評点をつける。マイクロソフトの場合、「値付けの高さに対する粗利額の低さに驚いた」という一部SIerの声も聞こえてくる。やはり、収益確保のためには、周辺のSIビジネスを膨らませていくほかないようだ。
また、ある関係者は、「動画投稿サイトのYouTubeがある分、グーグルは強い」と話す。ユーザー企業は動画を共有し、eラーニングなどに役立てるケースが多い。メールやワープロ・表計算などは「好みの問題」(同)と切り捨てる。一方、Google Appsの弱さはワークフローの概念に欠けている点。申請や稟議、承認など企業ならではの仕組みは、コンシューマで育ってきた文化には馴染みが薄いのかもしれない。ただ、両サービスはまだ発展途上。これからSIerやユーザー企業とともに改善していく必要がありそうだ。(安藤章司)