バリューチェーンの一角担う
ダイワボウ情報システム(DIS、野上義博社長)は4月1日付で、既存のディストリビューション事業をグループ全体で発展させる旗艦組織として「テクニカル推進本部」を新設した。2005年頃には、自らシステムインテグレーションすることを目指した同社。その一方で、同本部を設立して自身の「強み」を最大限生かす展開に厚みをもたせることにした。流通卸機能に加え、メーカー製品に部品を組み込んだり、販売店が顧客へ納品する前段階のキッティング作業など担うことを強化する。これにより、メーカーや販売店のバリューチェーンの一角としての役割を果たす「究極のディストリビュータ」を目指す。
■メーカーからインプリ受託
「テクニカル推進本部」は、サーバーをはじめネットワーク全体に関わる技術支援とインプリメンテーションの機能強化を図ることを目的に設立した。同社が定義するインプリメンテーションとは、「ハードウェアやソフトウェアに新しい機能や仕様、部品などを組み込むこと」を指す。エンドユーザーが確定していない段階の作業で、主にメーカーからの受託で品質検査や機器組み込みなどを代替し、メーカー側の組み込み作業費や物流費などの削減を支援するというものだ。

同本部内には、サーバーをはじめネットワーク全体に関わる営業支援・技術支援を行う「テクニカル推進部」と、メーカーや販売店、ユーザー企業の要件に応じてカスタマイズ提案する「カスタマイズ推進部」、シスコシステムズのネットワーク製品販売を担う「シスコ事業部」がある。同本部全体では、複数部署から集められた40人以上の人員が所属している。
また、子会社のディーアイエス物流の埼玉・加須市の拠点を改装し、「カスタマイズセンター」を設立した。品質検査や機器組み込みに加え、ソフトウェアのインストールや設定変更のインストレーションなどを、1台の小口から大量導入のロットまでのキッティング作業に対応する体制を整えた。同社の説明によれば、キッティングは販売店やユーザー企業の依頼を受けて実施することになる。
同社が仕入・販売事業を拡大する背景には、国内IT業界構造が変化し、ディストリビュータに課せられる期待や役割が大きく変化したことがある。メーカーから製品を仕入れて、販売店やユーザー企業に卸す、いわゆる“箱売り”では、低価格化や要件が高度化するなかで、収益を生みにくくなっているためだ。さらに、法人向けでは、携帯電話などのビジネス利用が進んだり、時代とともに商材自体が高度化・多様化し、ネットワークを利用した提供サービスの拡充も求められてきた。

実際、同社は昨年度(2009年3月期)、パソコンやサーバーなどハードの販売台数が前年度比で2ケタ成長の実績をあげたにもかかわらず、収益率では前年度を上回るまでに至らなかったという。同社は詳細な定量データは公表していないが、「ユーザー企業や販売店、メーカーのあらゆるニーズに応えるサービスを提供するため、新たな加工プロセスを付加して高品質でローコストな展開をする必要が高まっている」(小峰伴之・取締役テクニカル推進本部長)とみている。要するに、システム導入に関わるSIerや顧客に対して付加価値を提供しつつ、流通・物流コストを削減し、これまで以上に物量を増やさなければ収益率は向上しないと判断し、組織再編策を打ち出したわけだ。
■現地導入の不良事故防ぐ
同社が取り扱う製品アイテムは約150万、その仕入先は約850社に及ぶ。仕入先メーカー数はディストリビュータのなかで随一を誇る。NECや富士通など大手メーカーを中心に、DISが今回拠点とするカスタマイズセンターのような機能は持っている。しかし、各社の自社製品や提携するメーカー製品に限られる。一方、DISはマルチベンダーで何でも揃うため、顧客のどんな要望にも応えられる。
テクニカル推進部の西田善紀部長は「SIerなど販売店が顧客先でシステムをセッティングする際に、現地でハードやソフトが初期不良などで動かないことがよくある」と話す。SIerのバリューチェーンのうち、品質検査やキッティング作業などをDIS側に預けることで、「システム導入の無駄を省き、導入期間を短縮化してコストも削減でき、顧客満足度の向上も図れる」(同)と、販売店によるシステム導入期間を短くできれば、案件を増やして利益率を引き上げられると踏んでいる。
現在、テクニカル推進本部の新設に関するメーカーと販売店向け説明会を断続的に開催し、参加各社のバリューチェーンで「商流」の一部工程を受託する作業を活発化させている。小峰取締役は「始めたばかりで、手応えのほどは分からないが、利益率は確実にアップできる」と、自信のほどをみせている。