KDDIは、SaaSサービスのアプリケーションベンダー向け支援制度「Business Port Support Program」によって順調にパートナーを増やしている。プログラムへの参加数は100社以上。そのうち6社で、このほどSaaSサービスが実現した。今年度(2010年3月期)はアプリケーションをさらに拡充し、SaaSサービスの本格化を図ろうとしている。だが、課題は販売代理店の獲得だ。拡販するための商流を確保できるかどうかがカギを握る。
KDDIの「Business Port」は、SaaSによるアプリケーションサービスを通じて、パソコンと携帯電話が連携するための統合プラットフォームとして提供しているもの。アプリケーションサービスをメインにしており、KDDIにとっては回線サービスが収益の柱である通信事業者のビジネスモデルを抜本的に変えるサービスの一つだ。
しかも、SIerが提供するSaaSサービスと異なり、アプリケーションと通信事業者が柱に据える回線を組み合わせて提供している。アプリケーションベンダーにとっては、「Business Port」に適したSaaSのアプリケーションを開発すれば、KDDIの回線を導入している企業に対して、サービス提供が可能ということだ。「SaaS時代を制するのは誰か」という議論が繰り広げられた際、KDDIは通信事業者であることを証明するためのサービスとしても位置づけているといえよう。
こうしたサービスであることから、KDDIはSaaS事業を通じて、これまでとは異なったビジネスを展開している。アプリケーションベンダーとの協業を重視しているのだ。サポートプログラムを策定することで、アプリケーションベンダーとのパートナーシップ確保に力を注いでいる。07年12月から提供している「Business Port Support Program」は、09年3月の時点で参加企業数が100社を超えた。しかも、6社がアプリケーションのSaaS化を果たしており、今年夏からの提供開始を計画している。具体的なアプリケーションサービスは、イデアクロスの「ECサイト関連構築」、インフォコムの「災害時の安否確認」、エイ・アイエスの「受発注管理」、興和とテラが提供する「モバイルeラーニング」、プロネットの「音声応答」など。傍島健友・ソリューション戦略本部アプリケーション推進部1グループリーダーは、「サポートプログラムへの参加企業が増えているのは、(通信事業者である)当社とパートナーシップを組むメリットが大きいと認めてくれているからだ」と自信をみせている。
KDDIでは「Business Port」を広めるため、「アプリケーションの増加を一段と早めていく」方針を示す。今年4月からは対象ユーザーとして想定している中小企業に対してダイレクトマーケティングを打っていく専門組織を設置したことで、SaaS事業の拡大を本格化させている。しかし、課題として残っているのが、いかにして販売代理店を獲得するかということだ。現状では、販売代理店に対する支援制度などを設けておらず、販売に関しては「(パートナーの)アプリケーションベンダーに任せている」のが実態。拡販を図るための仕組みを考えていかなければならないだろう。全国網になっている携帯電話や固定電話などの販売会社をSaaSの販売代理店として確保するのも一つの手だ。「現段階では、さまざまな方法を選定し、最適な策を模索している」。アプリケーションサービスが充実し、販売代理店が確立することになれば、KDDIのSaaSサービスは大きなビジネスに変貌する可能性が大きい。(佐相彰彦)