米オラクルによる米サン・マイクロシステムズ買収の発表から約1か月が経過した。日本のIT業界では、評価や対応が割れ始めている。IT業界は、これまでオープン化による水平分業で発展してきたが、行き過ぎた分業はベンダーの細分化や収益の悪化をもたらす。オラクルはハードウェアとミドルウェア、アプリケーションの統合・標準化により競争力を高める戦略に出た。これに対してビジネスパートナーの反応はさまざまだ。
【メリット派】“手離れのよさ”に期待
ソフトウェアベンダーがハードウェアベンダーを買収する今回の動きは、ソフト主導で垂直統合が進むことを意味する。ベンダーの一部には統合による“手離れのよさ”を期待する向きがある。CPUの開発などでサンとの関係が深い富士通の松原信・経営執行役常務は、「朗報だ」と捉えて自社のビジネスにとってプラスになると断言。大規模システムでサンのSPARC(スパーク)とオラクルデータベースの検証作業の手間が軽減されるなどのメリットがあるとみる。中堅・中小企業向けのビジネスを得意とするSIerの日立情報システムズの原巖社長は、「ハードとミドルを一体化させ、価格も手頃になれば売りやすくなる」と、アプライアンス化による手離れのよさを指摘。データベース(DB)などソフトを事業ドメインにしてこなかったネットワーク系販社(NIer)からも、「アプライアンス製品が出てくれば、売りやすくなる」(あるNIerの幹部)との声があがる。垂直統合のメリットといえるだろう。
【中間派】観察を続ける構え
ニュートラルなポジションを重視する中間層も多い。昨年末にサン製PCサーバーのディストリビューション契約を結んだダイワボウ情報システムは、「自社のビジネスにとってほとんど影響ない」(同社幹部)と静観の構え。SIerの住商情報システムは、「ソフト面で見れば“Javaワールド”が広がる」(同社の福永哲弥取締役)と、Javaを支える経営基盤の強化を評価。同社はサンのハードの販売比率がもともと少ない。オラクルからみれば、こうしたJavaと接点が多いSIerとの関係を強化することで、サン製ハードの販路拡大につながる可能性がある。また、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)や新日鉄ソリューションズ(NSSOL)など、サン製ハードやUNIX系OSのSolaris(ソラリス)との関わりが比較的深いSIerは慎重な構えを崩さない。近年はPCサーバーに押され気味のUNIX系システムだけに、「コメントできない」(CTC)、「PCサーバーの勢いは強い」(NSSOL)と、適度な距離感を保ちながら観察を続ける構えだ。
【デメリット派】選択する機会が減る
一方、ライバル社の見方は厳しい。マイクロソフト内部からは、「オラクルがハードを持つことで、オラクルパートナーがハードを自由に選択する機会が減るのではないか」との声が聞こえる。仮想化ソフトで競合するヴイエムウェアは、同社が展開する水平分業か、あるいはオラクルとサンの垂直統合型か、「どちらがよりメリットが大きいのか、ユーザーやビジネスパートナーが選ぶべき事柄」(同社の三木泰雄社長)と強気だ。
米オラクルのチャールズ・フィリップス社長は、「今回の買収は、当社が描く方向性を示すもの」と位置づける。かねてから“標準化”をキーワードに掲げる同社は、買収により標準化を促進し、スムーズな統合を「早急に進める」と意欲を示す。過去にBEAシステムズやピープルソフト、シーベルなどを買収してきたオラクルだが、統合時に販売パートナーなどへのサポートが手薄になり、一部で離反する動きも出た。サンとの統合効果を迅速かつ具体的にパートナーに示すことが成功へのカギになりそうだ。(谷畑良胤、佐相彰彦、木村剛士、安藤章司)
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販売チャネル開拓のチャンス

米オラクルは、米サン・マイクロシステムズを買収したことで、世界ソフトウェア会社上位5社のうち、企業向け製品でハードを持つ唯一のITベンダーになる。UNIXの存在価値が薄れ、PCサーバーは単価下落が止まらないなか、どんな狙いがあるのか。まず確実に言えることは、サンがこれまで築き上げてきた顧客ベースにオラクルがアクセスできるようになる点だ。サンはUNIX全盛だった時期に通信事業者や官公庁・自治体へ多くのシステムを納入してきた。最有力販社である伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は、PCサーバーが主流になった今でも、サンの取扱金額がPCサーバーのそれより多いという。オラクルの豊富なミドルウェアやアプリケーションを武器に、再度、こうしたサンユーザーの深掘りが可能になる。さらに、サンが持つソフト資産であるJavaは、ソフトベンダーであるオラクルにとって親和性が高い。
サン側から見たメリットも多い。PCサーバーの台頭で、サンの扱いが相対的に減ったSIerが少なくないなかで、例えば、オラクルのミドルウェアとサンのハードを連携・アプライアンス化させることにより、再びサンの取り扱いを拡大、あるいは新規でサン製品を扱うSIerを増やせる可能性がある。サンもPCサーバー製品を出しているが、規模の経済で先行するヒューレット・パッカードやデルによって苦戦を強いられている側面があるのは否めない。この点、オラクルのデータベース(DB)を採用しているSIerは多く、サン製品の販売チャネルを再び太くする絶好のチャンスだ。
あるIT業界関係者は、「いよいよソフトベンダーがハードベンダーを買収する時代がきた」と、感慨深げに語る。オープン時代にソフトとハードの両方を持つ“垂直統合”のリスクが大きいのは事実。だが、ハード資産を有効活用する方策として、今後はプラスの影響が出てくる可能性もある。(安藤章司)