マイクロソフト(樋口泰行社長)は今年1月、新たな自治体支援プログラムを発表した。「地域活性化協働プログラム」と題した支援制度がそれで、同社が過去5年間にわたり約30自治体に向けて個別支援してきたノウハウを結集、支援内容を体系立てたものだ。1年間限定で4県に向けてさまざまなメニューを用意して無償サポート。地方のIT化に向けて全面協力する姿勢を従来以上に鮮明に示している。この制度に行き着いた経緯や支援内容、現地で聞いた各県のIT事情をまとめた。
過去のノウハウ生かした新制度

効果見込める県を優先サポート
佐賀、高知、鳥取、徳島を選定
マイクロソフトは「企業市民活動」と題し、自治体や団体、ITベンチャー、中小企業などを無償で支援する社会貢献活動を推進する。自治体向けには5年ほど前から無償支援活動を開始。それぞれの自治体にあわせたサポート内容をつくり、約30自治体を支援してきた実績がある。
そんななか、今年1月30日には自治体向けの新たな支援制度「地域活性化協働プログラム」をスタートさせた。これまで支援してきた自治体の声やサポートしてきた実績、そのノウハウを結集。多くの自治体が悩んでいる事柄を抽出し、それを体系立てたのがこの制度だ。
新プログラムの第一弾として選んだのは、(1)佐賀県(2)高知県(3)鳥取県(4)徳島県の4県。発表当初は青森県とも協業する予定だったが、ITベンチャーの支援では協力するものの、今回のプログラムでは協業を見送った。ITを活用することによる地域活性効果が大きそうな自治体をマイクロソフトが選び、各県に提案して協業に至った格好だ。例えば、高知県はブロードバンド環境が47都道府県中最も未整備の県で、情報インフラの構築が急務になっている。一方、鳥取県は人口が最少ということもあり、ITベンダーの数が最も少ない。IT化が遅れて住民のIT利用が進まなかったり、IT産業が育っていなかったりする県を優先的にサポートするわけだ。
4県との覚書締結にあたり、アプローチしたのはマイクロソフトの側からで、4県と結んだ覚書締結式典には、すべてその県で開催したにもかかわらず、樋口社長自らが足を運んで出席する熱の入りようだった。「会社の業績が良くても悪くても、ビジネスとは切り離して継続展開する」。樋口社長は鳥取県での覚書締結式典前にこう断言していた。各知事は共通して歓迎ムードで、高知県の尾正直知事は「マイクロソフトという良い先生を迎えられたことに喜びを感じている」と評価し、鳥取県の平井伸治知事は「パートナーとして認められたことはありがたい」と感謝の意を示した。
10種類の支援内容
学校や高齢者向け支援に要望
これら4県に対して支援する具体的内容は下表に示した通り。合計10種類で、なかでも「ICTスキルアップオンライン」や「高齢者向けICT利活用推進プログラム」「ITベンチャー支援プログラム」は4県のうち3県が採用。教育現場のIT化遅れと、高齢化が進む地方のIT利用の少なさ、地元ITベンチャーが成長しない点に共通して悩んでいることがわかる。また、なかには女性の就労支援や障害者の生活サポートのために、ITを活用したいと考える自治体もある。
共通プログラムではあるものの、今後マイクロソフトと各県が話し合い、具体的な施策を実行する計画だ。鳥取県の秋元竜・企画部協働連携推進課協働担当主事は、「高齢者のITスキル向上のために、講師育成に着手している。1年間に少なくとも講師を10人は育てたい」と、すでに動き出している。

支援期間は、覚書締結から1年間。「地域活性化協働プログラム」など社会貢献活動を指揮するマイクロソフトの大井川和彦・執行役常務パブリックセクター担当は、「支援期間が終わった後、自治体自らがIT活用による地域活性化施策を独自で展開してくれることがこのプログラムの最終目標」と語る。
ただ、ハードルもありそうだ。支援を受ける、ある県職員は言う。「企業とのアライアンスによるIT支援策を考える専門部署がないために、率先して指揮する人間がいないとなかなか進まない。仕事が増えると思って協業に否定的な声もあった」。こんな声もある。「今回の協業で、『あの県は“マイクロソフト寄り”』と思われてしまうのではないかと、懸念する意見もあった。必ずしも全員賛成とはいかなかった」。1社の民間企業の支援を全面的に受けることは、自治体にとっても冒険のようだ。この支援制度で、各県が今後どのような成果物を出すか。最大のユーザー数を抱えるソフトメーカーが過去のノウハウを集めた支援制度で、自治体がどう変わるのかは注目に値する。