「倉庫+IT」でユーザーニーズに応える
鈴与(鈴木与平社長)は1801年に静岡県で創業以来200年以上、8代続く老舗企業だ。物流を中心に、商流、建設・ビルメンテナンス・警備、食品、情報、地域開発・その他サービス事業など、国内外に130余りの関連会社を傘下に抱える静岡県きっての複合企業グループだ。
そんな鈴与が新しく提供を開始したのが、ITを駆使した文書のライフサイクル管理サービス「SDLM(Suzuyo Document Lifecycle Management)」である。 ■「アクティブ」文書も倉庫保管情報を即座に利活用
鈴与はこれまでも、物流倉庫内のサービスとして「文書保管サービス」を手がけてきた。競合他社も文書保管サービスを提供しているが、共通するのは顧客社内で活用する頻度が少なくなった書類を箱単位で預かり、「眠らせておく(スリープ文書)」サービスだった。
企業内の書類を取り巻く環境は大きく変化してきた。金融証券取引法や個人情報保護法などで、文書管理の重要性が増している。内部監査においては、本当に取引が行われたかどうかについて、保管している発注書、受領書などから抽出したサンプルの証憑を照合する。その際、企業が倉庫に書類を預けていれば、必要な書類が入った箱ごと取り出し、目当ての書類を探し出さなければならない。「もし必要な書類50枚が別々の箱に詰められていたなら、一箱5000~6000枚にものぼる膨大な数の書類から必要な書類を探し出さなければならない」と鈴与の堤要・事業企画室室長は実情を語る。こうしたことから、「箱単位」ではなく、「文書単位」で即座に検索し、抽出する仕組みが求められるようになってきた。
企業は頻繁に利用する請求書などの書類(アクティブ文書)については倉庫に保管せず、社内のキャビネットなどに保管するケースが多い。不用意な保管は情報漏えいリスクを拡大しかねない。
鈴与の「SDML」では、こうした「アクティブ文書」についても、高いセキュリティで守られた同社の倉庫に保管し、かつ即座に情報を活用できる仕組みを提供する。同社のサービスは「原本保管」を基本とし、デジタルデータと原本を密接にリンクした書類の保管と、廃棄までのトータルアウトソーシングが特徴となっている。
■保管~廃棄までトータルで廃棄書類はリサイクル
サービスの仕組みは、まず、顧客が鈴与の提供するウェブ管理システムから、倉庫に入れたい書類の搬送依頼を行う。ウェブ管理システムではさまざまな指示が可能で、書類原本の入出庫依頼や、書類保存箱に貼るQRコードの印字されたラベルと、文書管理台帳を作成できる。
搬送依頼を受け、鈴与が派遣した専門のドライバーが顧客先に出向き、ハンディターミナルで書類保管箱のQRコード印字ラベルを読み取る。倉庫内の「SDLMセンター」で「スリープ文書」と「アクティブ文書」に区分し、「アクティブ文書」は高速スキャニングする。このとき、種別ごとに文書用フォームを登録し、自動判別・検索用のインデックスを自動生成する。原本は倉庫内に保管し、顧客は先ほどのウェブ管理システムを使って、デジタル化された文書画像を閲覧できる。デジタル文書には閲覧・承認権限を付与できる。

これまで箱単位で入出庫していた書類を、1枚単位でウェブで検索し、依頼をかけることができるので、「原本を探すリードタイムを大幅に圧縮できる」(同)という。また、デジタルデータはウェブ上で閲覧するだけでなく、CSV形式で出力し、一般的な会計ソフトにインポートできる。これにより、リアルタイムに情報の利活用を実現できるわけだ。一連の作業は同一倉庫内で完結するので、情報漏えいの心配は不要となる。
一定保管期間を過ぎると、倉庫内の書類は廃棄される。一般的に情報漏えいを起こさないためにも、企業にある文書はシュレッダーで裁断するが、そうすると紙の繊維が寸断され、リサイクルができなくなってしまう。環境に対する意識が高まっているなか、機密情報を完全に抹消し、リサイクルするために同社が行っているのが、紙の繊維を残したままインクを抜く「脱墨」という方法だ。処理したリサイクル原料を製紙工場に持ち込み、ユーザー企業に対しては「リサイクル証明書」を発行。企業のCSR活動の一助にもなる。
同社がこのサービスを始めた理由の一つに、競合他社との差別化がある。「倉庫の文書保管サービスはコモディティ化し、個人情報保護法施行前で400~500億円規模とされる市場は、伸びが緩やかになってきている」と堤氏はみる。「SDLM」は、こうした危機感のもとに生まれた。文書・帳票類のデジタルデータ保管を求めた05年施行の「e-文書法」により、民間企業に少しずつデジタル化の波が押し寄せている。競争優位性を獲得するために、新しいサービスをリリースした。
まずは静岡県内の倉庫から開始し、ゆくゆくは首都圏に広げていく計画だ。顧客対象は大企業中心だが、中堅企業のニーズにも合致すると強調する。「原本保管がメインでITベンダーの文書管理製品とぶつかる心配がないので、協業してサービス展開を行いたい」と堤室長は展望を語っている。