棚卸在庫を2年間で半減へ
OKIデータ(杉本晴重・社長CEO)は、この2年半で、世界で一斉にSCM(サプライチェーンマネジメント)改革を断行し、棚卸在庫を半減させるなどの成果を上げた。2008年4月には役員や各国販社を統括する「SCMセンタ」を立ち上げ、改革は現在も続いている。プリンタ市場が低迷するなか、間接費を極力抑え、収益を上げるモデルへの切り替えが必須となっている。これを成し遂げた同社のSCM改革をレポートする。営業利益60%減少で焦り
欧州・中国を中心に世界展開するOKIデータの業績は、2006年度(07年3月期)の売上高が前年度比約15%増の1871億円と大幅増収になった一方で、営業利益は同約62%減の17億円と大きく落ち込んだ。この収益悪化を受け、「グローバルで物流コストや棚卸金額などを減らすため、全体最適のオペレーション遂行が必要で、そのために全社で統合された機能と役割をもつ組織が必須だった」(坪川裕・専務取締役)と、07年3月からSCM(サプライチェーンマネジメント)改革の「プロジェクト体制」をスタート。順次施策を講じつつ、08年4月には「SCMセンタ」と名付けた「グループ棚卸し管理チーム」を設立した。
収益が悪化した06年当時、SCMの間接コストのうち棚卸在庫は440億円に膨れあがり、CTR(売上高に対する棚卸在庫額)が4.2%に達していた。プリンタの製品価格は世界的に低価格化が進展。プリンタ市場全体にも伸び盛りだった03~04年の勢いはなく、このままでは営業赤字が現実のものになる可能性があった。このため、07年当初からSAPのERP(統合基幹業務システム)を順次導入。「世界を一括で見る組織で、PSI(生産および調達、販売、在庫に関わる一連プロセス)を『見える化』するプロジェクトを開始し、本社役員が一連の動きを把握して責任を持つ体制に改めた」(坪川専務)のだ。

当時、悲鳴をあげていた同社SCMの分析に携わった大泉洋子・生産統括本部SCMセンタ長は、こう振り返る。「棚卸金額が多く、物流コストが高かった。それに、各国バラバラに管理しているため、内訳が見えない。ロジスティクス(航空機・船舶・陸運の物流)は複雑で、TAT(受注から納品までに要する時間)が長かった」。
ここに至った要因としては、各国の需給をもとに販売戦略を練る販社側が、機会損失を恐れて在庫を多く抱え過ぎていたことが挙げられる。さらに、フォーキャスト(FC=生産計画)にぶれが生じることが多く、生産側との調整が難しく納期遵守が困難になり、逆に販売機会を逸していた。また、欧州、米州、日本ともに過剰に外部倉庫を抱え、固定費が増大していたことも足を引っ張った。
役員参加の需給会議を定例化 大泉センタ長を中心に、この分析内容に沿った改革が1年にわたって続いた。08年4月には、全社一括組織として正式に「SCMセンタ」が立ち上がった。この間、世界各国の拠点にある直系販社へのガバナンスを強化し、個別最適から全体最適へのシフトを敢行。本社役員が参加する「需給決定会議」「棚卸し会議」「SCM進捗会議」などを断続的に実施する一方、新プロセス「インターロックプロセス」を導入し、納期遵守を徹底した。06年当時は、売上至上主義で営業活動をする販社に対し、過剰在庫を持つことを認めていた。しかし、インターロックプロセスでは、「2か月先の販社側の売上見込みに対して、一定の範囲内(前後20%程度)で注文の増減に対応することを営業と生産の両面で合意した」(大泉センタ長)ことで、在庫の削減と生産の効率化を実現したという。
ロジスティクスの改革では、欧州2か所の外部倉庫を1か所へ集約したほか、米州も東西海岸各1か所を東海岸1か所へ、日本も福島・笹谷と埼玉・桶川の外部倉庫を、生産拠点の福島工場の隣接倉庫へ集約した。このほか、生産ラインのある工場では「セル生産方式」の導入で空きスペースができ、ここに倉庫の一部を充てた。この改革は、早期に実績を上げることになった。
07年8月には、SCM改革で10日間の納期短縮と年間1億2000万円の物流コスト削減を実現した。それまで欧州では、各国で異なる仕様要求に応えるため、中国の生産拠点で製造したプリンタ本体を、完成検査のあと、個装梱包をせずに英国スコットランドに船便で輸送。さらに、各国向けのコンフィグレーションと各ユーザー仕様にカスタマイズし、オランダの商品倉庫にトラック輸送したうえで、ディーラーなどへ出荷していた。これを、中国の生産ラインにある完成検査の前工程に各国向けコンフィグレーション業務を行い、スコットランドを経由せずオランダ倉庫へ運ぶようにした。
この2年以上にわたるSCM改革で、同社の棚卸在庫は圧縮され、06年末の440億円から08年末に212億円に半減した。このほか、在庫回転率も4.5回転(06年度)から6.12回転(08年度)に高まり、全体のキャッシュフローが08年末で124億円に達し、07年度に比べプラス70億円を計上した。
08年度のCTRは、日本市場の需要低迷や為替差損などの影響を受け、売上高が06年度に比べ255億円減ったことで、7.62%に増えた。だが、全体としては売上高減の影響を最小限に食い止めている。09年度は「リーマン・ショック」後の影響が残り、在庫圧縮までに時間を要するため、08年度に比べ微増だが、在庫を230億円にし、CTRを6.44%に回復させることを計画。坪川専務は「今年度は、成長著しく価格要求の大きい新興国への供給体制を見直す」と、SCM改革はまだまだ進行中だ。
同社のLED(発光ダイオード)プリンタは、筐体コストが高く、販売パートナーに高いインセンティブをもたらすためにも、間接費の圧縮が生命線となる。新興国へ進出するために、もうワンランク上のSCM体制が求められるところだ。