垂直統合体制へ

日立製作所(川村隆会長兼社長)は上場SIer3社を含む子会社5社を完全子会社化する。上場SIer3社は、これまで自主独立でビジネスを拡大させてきただけに、完全子会社化は寝耳に水。活力を削ぐ危険性がある。だが、日立製作所は前期に7873億円もの純損失を出しており、もはや背水の陣。電力や都市開発、交通などの社会基盤領域に活路を見いだす日立にとって、上場SIer3社のITの力量は不可欠と判断し、今回の完全子会社化を決定した。
今年8月20日から始まる予定の株式公開買い付け(TOB)によって完全子会社化される見通しの上場SIerは、日立情報システムズと日立ソフトウェアエンジニアリング、日立システムアンドサービスの3社。いずれも、本体の下請けや日立グループ向けの仕事よりも、自らが元請けとなるビジネスを重視してきた。とりわけ日立情報と日立ソフトは、業界に先駆けてクラウドやSaaSに参入し、競争優位性を高めてきた。厳しい受注環境の下でも3社は昨年度黒字を確保。“有力SIer”と目されてきただけに、業界関係者は驚きを隠せない。
SIer最大手のNTTデータは、今回の再編について「競合関係がより強まる」(同社幹部)と分析する。日立情報や日立ソフトなどの個別の年商は2000億円未満。1兆円を超えるNTTデータの「敵ではない」(同)との構えだったが、完全子会社化し、日立製作所と一体化すれば話は違ってくる。日立が軸足を置く社会基盤の領域では、大手同士の総力戦へ発展する。日立製作所の川村隆会長兼社長は、「独立気質が残るところでは、全体最適を理解してもらわなければならない」と、上場3社に譲歩を迫り、強力な垂直統合体制へと舵を切った。
背景には、日立の製造業としての競争力低下と、ITの重要性の増大が挙げられる。サーバーやパソコンでは差別化が困難で、かつ企業経営から鉄道、原子力発電所の制御に至るまで、ITなしでは付加価値が高まらない。富士通はかつて上場SIerだった富士通サポートアンドサービス(現富士通エフサス)を完全子会社化。今年5月には同じく上場SIerの富士通ビジネスシステム(FJB)の完全子会社化を発表。NECも、NECソフトなど上場SIerを完全子会社してきた経緯がある。グループ外の独立系SIerを買収する選択肢ではなく、グループ会社の完全子会社化を選ぶケースが目立つ。今回、2790億円もの資金を投じて5社を完全子会社化する日立の川村会長兼社長は、「早く成果を出すためと、企業文化の異なる者同士では合併後の調整に時間がかかることを懸念した」と話す。

クラウドやSaaSに象徴されるように、ITビジネスは大きく様変わりする。上場SIer3社の事業モデルは似ており、以前から再編統合の噂が絶えなかったが、今回、危機に瀕する日立本体を立て直すため、全体最適による垂直統合型への道を選んだ。メーカーはソフト・サービスを取り込み、何とか生き残る道を模索する。しかし一方では、有望なSIerの自立心や自由度、多様性を削ぎ落とし、将来のビジネスの芽を摘む側面があることは否定できない。(安藤章司)