弓削商船高専の卒業生4名と在校生1名が、第3回「ものづくり日本大賞」(内閣総理大臣賞)を受賞し、その表彰式と祝賀会が7月15日、東京・永田町の総理大臣官邸で行われた。2006年に開催された「全国高等専門学校第18回プログラミングコンテスト(高専プロコン)」の課題部門における、最優秀賞(文部科学大臣賞)の受賞が、今回の「ものづくり日本大賞」につながった。(佐々木潔●取材/文)
弓削商船高等専門学校 高専プロコンでの活躍が「ものづくり日本大賞」に結実
ずっしりと重い金メダル 「ものづくり日本大賞」は、ものづくりを支える人材の意欲を高め、その存在を広く社会に知らせることを目的に創設された内閣総理大臣表彰で、2年に一度開催される。
この賞は経済産業省、文部科学省、厚生労働省および国土交通省の4省庁が、有識者で構成される第三者委員会の審査等を踏まえて受賞者を選定するもので、文科省によって選定された4件(7名1団体)のなかに、弓削商船高専の名前があった。
今回、インタビューは東芝本社で行った。この4月から受賞メンバーの一人・小柳亜由美さんが東芝ソリューションの関連会社である東芝プロセスソフトウェアに入社し、東芝ソリューションの好意により取材の場が用意されたからである。7月16日、東芝本社に顔を揃えたのは、中本裕美さん(第18回高専プロコン当時5年生)、丸山奈希さん(同)、矢野ありすさん(同)、小柳亜由美さん(当時4年生)、長尾詩織さん(当時1年生)の5名の受賞者と、指導教員の長尾和彦教授である。
弓削商船高専が「ものづくり日本大賞」の受賞を知ったのは、文科省からの直接の連絡によるもので、そのときの指示は、「第18回高専プロコンで文部科学大臣賞を受賞した作品、『Beauty and the Beads』の概要を1枚のペーパーに要約して提出するように」というものだった。
表彰式当日は、まず経産省に呼ばれてリハーサル、そして首相官邸に入ったところでもう一度リハーサルが行われた。足が地に着かない感じのメンバーを引率しながら、長尾先生は式の開始と終了の時刻を時計で確認していたそうだから、わずかに余裕を取り戻していたようである。
彼女たちの興奮がピークに達したのは、表彰状を授与され、ずっしりと重い金メダルを手渡された瞬間だった。
作品を通した自己主張を 
彼女たちの作品「Beauty and the Beads」は、さまざまな事情から制作日程が大幅にずれ込んだ。貴重な数日間を、はしかの発生による学校閉鎖で失いもした。前期末試験を受けた足で、そのまま大会会場に直行し、デバッグに追われた。プレゼンターの小柳さんが、フィックスした発表原稿を練習できたのは、深夜だった。──そうしたさまざまな思いが胸をよぎったかと思いきや、彼女たちにとっては「すでに過ぎ去ったこと」(矢野さん)で、長尾さんが語った「今回の受賞は、当時のメンバー全員が一堂に会する機会を与えられたことがとてもうれしかった」という感想に尽きるらしい。
長尾先生からの「後輩たち(全国の高専生)にアドバイスを一言」というリクエストを受け、彼女たちは次のようなコメントを寄せてくれた。
矢野さんは「現状に満足してほしくない」と語る。「プロコンに参加して終わりではなく、作品を通してもっと自己主張して欲しい。自己主張というのは、何のために作ったか、なぜそのように作ったのかが、他者から見ても分かるような作品のこと」だという。
「まずは健康が第一」と語るのは中本さん。デモの前日までデバッグを繰り返した学生時代は、本番をへろへろの状態で迎えた。「頑張ることと自分のコンディションとの折り合いをつけること、それが本当に優秀なプログラマだと思います」。
先輩のアドバイスに耳を傾けていた長尾さん。1年生から3年連続でプロコンに出場する彼女のモットーは、「制作する過程そのものを楽しみたい」。「楽しみながら制作することで、毎年継続していけると思うから…」というその考えは、トップ・アスリートの多くが指摘するところでもある。
この秋、千葉県の木更津市で行われる大会会場では、弓削商船工専チームのみならず、制作する過程を十分に楽しんだ作品に出会いたいものである。
| 長尾和彦教授のコメント |
この受賞がメンバー各自の誇りになることは当然として、高専プロコンに挑戦する現役高専生にとって大きな刺激、そして励みになることを願っています。 |