NTTグループは、クラウドやSaaSの基盤整備に余念がない。NTTデータとNTTコミュニケーションズは、共通のSaaS基盤を完成させ、この9月以降、順次サービスを始める。多くのアプリケーションベンダーとパートナーシップを組み、多彩なサービスを提供するのが売りだ。NTTデータはSaaSに対応した人事管理ソフトを開発するアイテックスをグループ化するなどM&Aによるサービス型ソフト商材の増強も進める。社内外の売れ筋のソフトをどれだけ効率よくSaaS/クラウド化できるかが、今後のサービスビジネスの趨勢を決める。
ソフト商材がカギ
NTTデータとNTTコムの共通SaaS基盤は、ここ1年がかりで開発してきたものだ。それぞれが似た基盤を重複して開発するのは効率が悪いため、NTT持ち株会社の研究企画部門が調整役となり、共通のプラットフォームを採用。ID認証やポータル、料金回収代行、マルチペイメント決済などの基盤機能群を共同で開発し、両社それぞれのSaaS/クラウド系のビジネスで活用する。SaaS/クラウド基盤を巡っては、複数が乱立しているうえに、すでに一部で価格競争に入る様相だ。ERPソフトベンダーのワークスアプリケーションズの牧野正幸CEOは、「有力な複数のクラウド基盤に対応させる」と、どのプラットフォームが最もコストパフォーマンスが高いか目を光らせる。NTTグループにとっては、主力商材の一つであるNGN(次世代ネットワーク)を普及させる狙いもある。

NTTデータは、基盤整備と並んで独自のERP「Biz∫(ビズインテグラル)」の開発を進めており、「SaaS関連ビジネスの収益のうち自社アプリケーションで3分の2は稼ぐ」(NTTデータの神田文男執行役員)と、SIerの主戦場である業務アプリ領域での収益拡大を目指す。Biz∫では、有力ソフトベンダーとの連携を深めており、この8月にはBiz∫の人事管理領域で業務提携するアイテックスをグループ化した。基盤サービスと、これに対応したソフト商材を増やすことで相乗効果を高める戦略だ。
自社アプリをNTTデータほどはもたないNTTコムは、ソフトベンダーとの協業を強化。現在はセールスフォース・ドットコムなど9社と連携しているが、早い段階で「20社程度まで増やす」(NTTコムの原隆一理事)ことにより、主力商材であるネットワーク回線の拡販につなげる。富士通やNECなどもSaaS基盤の整備に積極的で、大手の基盤シェア争いが本格化する見通し。日本IBMはソフトやサービス商材の充実に乗り出しており、SaaS/クラウド領域においても、従来のSIビジネスと同様、売れ筋のソフトをどれだけ揃えられるかが勝敗を決しそうだ。(安藤章司)