Linux開発・販売のターボリナックス(矢野広一社長)が業容変革を加速させている。コンセプトは「Linuxを売るから使うへ」――。Linuxのライセンスおよび関連サービスを販売する従来事業から一転、Linuxシステムを自社活用したネットサービスを提供して稼ぐモデルへと変貌しようとしている。Linuxを中心としたオープンソフトウェア(OSS)は着実に普及するが、ITベンダーにとっては利益を捻出しにくい時代になった。その流れを捉え、ターボリナックスは事業を転換し始めた。
ターボリナックスのメイン事業は、もともと自社開発LinuxやOSSを活用した製品の販売、サポートやSIなどのサービス提供だった。OSSブームに乗ってビジネスは拡大し、2005年9月に大阪証券取引所ヘラクレスに上場。05年度(05年12月期)の業績は売上高12億2500万円、最終利益率は14.3%に達するなど勢いがあった。しかし、この時期を境に、OSS関連ビジネスを取り巻く環境もターボリナックスの業績も大きく変わる。
OSSは今でも普及の一途を辿るが、ITベンダーは稼ぐのが難しくなった。従来は、ユーザー企業・団体もOSSの知識が乏しいことから、ベンダーが提供する有償Linuxを購入し、有償サポートを受けるケースが多かった。だから、ITベンダーは儲かった。しかし、情報が増えたことで、OSSユーザーの多くはスキルを身につけ、「Cent OS」に代表される無償版を利用し、トラブル対応も自ら手がけるようになった。つまり、ITベンダーの力が必要なくなってしまったのだ。
このことが主要因でターボリナックスの業績も落ち込み、昨年度の業績は05年度に比べ約半減、最終損益は10億円弱の赤字に陥った。こうした状況だからこそ、ターボリナックスは大きく業容を変革することを決断したのだ。
矢野社長が目指す姿はOSSを軸に据えるものの、これまでとは大きく異なる。「OSSを使ったITインフラが武器のネットサービスベンダー」がそれだ。撤退こそしないものの、中心にするのは、従来のOSSや付随するサービスの販売ではなく、OSSを自社利用した情報システムを開発し、それを競争力の源泉としたネットサービスというのだ。矢野社長は、「ライセンスや関連サービスを売るビジネスでは成長はない。ただ、OSS関連の知識や開発力は武器。OSSを売り物にするのではなく、OSSを活用したサービスで稼ぐ道を選んだ」と説明している。
第一弾として用意したのが、中国市場向けの電子商取引サービス。中国で商品を販売したい日本企業が容易にECを始められるITインフラを作った。中国武漢政府が運営するECサイトと連携し、課金・決済など一連の業務を代行する。OSSを使えば、システム開発・運用コストは抑えられ、ユーザーへのサービスも安価に提供できる。システムの変更も自社で手がけられるようになる。
今後はOSSが基盤のITインフラを活用したネットサービスを増やす考えで、これらの新規事業を11年度に既存事業と同等の売り上げ規模に育てる考えだ。つまり、ITベンダーというよりも、ネットサービス企業に変わろうというのだ。
矢野社長は、こんな見方もしている。「有償ソフトも含めソフトを売るビジネスはなくなりはしないが、確実に縮小する」。老舗Linuxディストリビュータが新たな道を歩む姿は、ソフトウェアビジネスが転換期を迎えていることを印象づけているように感じる。(木村剛士)