「グループウェア」の戦線に変化が起きている。激しいシェア争いで衝突を繰り返してきたグループウェア市場だが、共存を模索する動きが活発化してきた。キーワードは“連携”と“棲み分け”。お互いのシステムを連携させたり、ターゲットの客層を変えたりするなど、敵対関係一色からの離脱が進む。正面からのぶつかり合いを避けることで体力の消耗を抑え、かつユーザーの利便性を高めてビジネスを円滑に進めることが狙いだ。
フロントオフィス系のシステムは、技術革新や新しいコンセプトによってシェアがダイナミックに変化する領域。ユーザーが、その時々のメジャーなグループウェアに乗り換えたり、部門ごとに異なる種類のスケジューラーを導入したりすることで、データの同期が困難になるなどの弊害もみられた。そこで打ち出されたのが、ベンダー同士の“敵対”ではなく、“連携”によってユーザーの支持を得る戦略である。

米セールスフォース マーク・ベニオフ会長兼CEO
グループウェア開発大手のサイボウズはスケジュール管理など一部機能をライバルのセールスフォース・ドットコムのサービスと同期する機能を付加。セールスフォース側もインタフェースを広く公開することで、他社アプリケーションとのデータ連携を推奨する姿勢をみせる。
セールスフォースは、グループウェア以外でも、連携の幅を広げている。同社のコールセンター向けのサービスでは、Googleやミクシィ、twitterなどメジャーな検索やSNS、情報共有サイトと連携。一般消費者の多くが利用するネットサービスの情報の一部を企業ユーザーが取り込めるようにする仕組みを発表した。「低コストでサービスの質を飛躍的に高める」(米本社のマーク・ベニオフ会長兼CEO)と胸を張る。エンドユーザーの多くは、すでにさまざまな既存のネットサービスを利用しており、このなかには企業や製品への要望も散らばっている。この部分を抽出して、顧客サービスの向上に結びつける。企業ユーザーは、高価でプロプライエタリな顧客管理システムや、自ら独自のユーザーコミュニティを運用せずとも、“いまネット上にあるものを最大限に使う”ことでコストを減らせるというわけだ。クラウドサービスベンダーの強みを生かし、既存のネットサービスとの連携でコストを削減。厳しい受注環境が続くなか、値頃感による優位性を前面に出す。
一方、サイボウズは、他ベンダーとの連携を進めながらも、自らは1ユーザー月額500円から利用できる中小・零細企業向けのSaaSを始める。業務アプリケーションベンダーと組んで営業管理や日報、クレーム対応などの多数のソフトを品揃えし、「安価で使い勝手のいいサービス」(青野慶久社長)に仕上げる。中堅・大手に強みを発揮するセールスフォースとの棲み分けを模索する。業績面では厳しいサイボウズだが、“連携と棲み分け”によって、勝ち残りを目指す。(安藤章司)