地図、図面、資産情報を一元管理
国内外に50以上のホテルを保有・経営するプリンスホテルが、GIS(地理情報システム)を導入した。根幹のGISツールは、アイエニウェア・ソリューションズ製品で、システム構築はソフト開発・SIベンチャーのインフォロジーが担当。多くの不動産をもつプリンスホテルはどんなGISシステムを求め、ITベンダーはその要求にどう応えたのか。ツールメーカー、システム構築ベンダー、そしてユーザー企業それぞれに話を聞いた。
膨大な不動産の管理改革に着手 プリンスホテルは、国内外に50以上抱えるホテルの経営のほか、ゴルフ場、スキー場など多くの不動産を運用する国内有数のアセットホルダーだ。固定資産を豊富に所有することは、それだけ管理業務も煩雑になる。当然ながら、効率的にマネジメントするための情報システムを求めていた。2002年に川奈ホテルを取得したことに伴い、その必要性はますます高まってきた。

プリンスホテル 佐藤宗宏氏
今回のGISソリューションを導入する前、プリンスホテルはその効率管理で課題に直面していた。過去の売買履歴や時価および簿価を電子データで管理し、その一方で登記簿や用地図面は紙媒体で管理していた。データが一元化されていないため、照合作業に時間がかかり、業務負担が重くのしかかっていたのだ。
プリンスホテルで今回のソリューション導入を指揮した佐藤宗宏・不動産事業部部長は、導入前をこう振り返っている。「情報が整理されていなかったため、とにかく仕事が面倒だった。とくに、さまざまな資料と図面データを照らし合わせる作業が大変で、ITで情報を整理し、紐づけることができれば効率化を図れると感じていた」と話している。
課題解決のために、複数のGISソリューションの情報を収集し、佐藤部長は、ソフト開発のITベンチャーであるインフォロジー(吉田潔史社長)に任せることを決めた。「多くのITベンダーからの提案を聞いたが、不動産事業そのものを理解しているベンダーが少なく、(提案内容は)業務に即していないものばかりだった。そんななかで出会ったインフォロジーの吉田社長は不動産管理業務を理解しており、ストレスなく会話ができた」と、佐藤部長はベンダーの選定理由を説明している。インフォロジ-は、GISソリューションに強いだけでなく、不動産管理システムに強い。ユーザー企業の業務を把握していることが案件獲得につながったわけだ。

インフォロジー 吉田潔史氏
インフォロジーの吉田社長は、「SDK(ソフトウェア開発ツールキット)や地図データとの親和性が高い」ことを評価して、GISエンジンとしてアイエニウェア・ソリューションズの「Maplet」を採用し、Web型GISプラットフォーム(地図)として同社の「FantaGISTA」を活用した。
さらに、インフォロジーの自社製品であるファイル管理システム「Cabit!」も利用して、プリンスホテル向けの「不動産事業管理システム」の開発に着手した。
「業務に即したシステム」が最良 アイエニウェア・ソリューションズの近藤兼充・エンジニアリング統括部プリンシパルコンサルタントは、「さまざまな地図データやアプリケーションに対応する柔軟性や複数ユーザーの同時アクセスをサポートする点などが評価されたのだろう」と、採用された理由を説明する。

アイエニウェア・ソリューションズ 近藤兼充氏
新システムを導入することで、不動産管理に関連する登記情報と課税情報などのデータを「不動産事業管理システム」で一元管理することに成功。各営業所からもアクセスを可能にし、必要な情報の取得・更新作業を大幅に軽減させた。佐藤部長は、「具体的な効果を数字で示すことは難しいが、不動産が増えても、管理業務担当者を増やさずに業務を進めることができている」と成果を実感している。
また、佐藤部長はこうも語っている。「システムの中身、とくにミドルウェアは何が適しているかなんて、ユーザーの立場からは分からない。どんなにテクノロジーやシステムが優れていても、業務に即した形でなければ、良いシステムとは言えない」。
インフォロジーが案件獲得に成功した理由は、ユーザーの業界、業務の流れを把握し、それに合ったシステム提案ができた点。吉田社長も今回のプロジェクトを振り返って、「システム屋と不動産管理現場の考えのギャップを埋めるのがポイントだった」と話している。
業務知識を熟知することで、ネームバリューやブランド力がないベンチャーであっても、大手企業のシステムを受注できる──。今回の事例はそれを証明している。

インフォロジーが開発した「不動産事業管理システム」。不動産の図面や設置場所を地図で確認できる
■導入ソリューションのカギ GISエンジン「Maplet」 電子地図と各業務システムで生成されるデータを紐づけて管理するのに効果的なツール。土木・建築業、地方自治体で利用されるケースが多く、用地や道路、上下水管理などで利用される。固有の地図だけでなく、さまざまな地図に対応するほか、Webアプリを感じさせない操作性が特徴。
事例のポイント
・全国に点在する不動産情報と地図データを紐づけて一括管理
・認知度低いITベンチャーが案件獲得、業務の把握が勝因に
・各システムや多様な地図が容易なGISを選定