47都道府県の複数の地域で、地場SIerが自社製品の販売網を構築する動きが活発化している。メーカー製品の販売や下請け開発だけでは生き残れないと判断し、未開拓地域で販売代理店の獲得に力を注いでいるのだ。流通させる製品はパッケージソフトが中心。地域密着型ビジネスのノウハウを生かして製品を開発しているだけに、各地域の中堅・中小企業(SMB)に向けて拡販を図っていく可能性が高い。メーカー製品を担いでいた側が自社製品の販売網を確立する動きは、国内流通網が大きく変革するきっかけになりそうだ。
自社ブランドで販社を獲得
奈良県を地盤にしてNEC製品をメインに販売している奈良情報システムは、グループウェアやSFA(営業支援システム)、CRMなどが活用できる統合ポータルサイトの開発を進めている。パッケージソフトとして来年の春をめどに市場投入する予定で、製品名は今後詰める。
特徴は、ユーザー企業の各社員が毎日の業務内容を記録すれば、その内容を自動で精査し、経営者が営業拡大や業務効率化などに使えるという点。間処陽一社長は、「市場投入した際には、中小企業を対象に販売していく。全国規模で需要を掘り起こしたいので、ディストリビュータやリセラーなどとの協業を進める」としている。また、VPN経由でテレビ会議が行えるシステムも開発。単体でサービス提供することを予定しているが、「当面は統合ポータルサイトとの組み合わせで拡販する」ことを検討している。
宮城県仙台市のSIerであるサイエンティアは、得意分野とする教育機関に製品・サービスを提供してきたノウハウを生かし、人材マネジメントシステム「Progress@site(プログレスサイト)」を開発しており、一般オフィスへの導入に力を注いでいる。ただ、現段階では「直販がメイン」(荒井秀和社長)で、営業人員の問題など販売の範囲が限られているのが実状。弱点を補うために、「宮城県以外の地域で活躍するSIerと販売面で協業することを考えている」という。現段階で具体的には決まっていないものの、関西など西日本地域でパートナーシップの構築を進めているようだ。
グループの力を結集し、すでに販売網を構築しつつあるのはNEC系販社。「NEC-NETグループ」で実ビジネスに結びつけるための販社間アライアンスが形になり始めている。九州と沖縄の2地域では共同開発で新しい製品が生み出されており、販売や在庫などを管理するソフト「WebNavi(ウェブナビ)」シリーズはその一例だ。開発に携わった沖縄県のオーシーシー(OCC)では、「当社だけでなく、パートナーになっているSIerが沖縄県以外で積極的に売ってくれている」(幸田隆・常務取締役)と手ごたえを感じている。販売開始から約2年が経過し、同社だけで200社程度を顧客として獲得した。同製品は、九州でKISや南日本情報処理センターが扱っているほか、全国網で販売されている。
その「WebNavi」シリーズを販売する南日本情報処理センターも、自社ブランドのセキュリティ製品「SecureSeed(セキュアシード)」を「NEC-NETグループを通じて、各地域で販売できないかどうかを、オフラインの会合などで話を進めている」(中 裕社長)という。どのような地域や業界で売れるかを検討しているほか、「お互いがメリットを享受できる仕組みを構築していきたい」考えだ。同製品は、IT資産管理やPC操作ログの実態把握などを機能として搭載しているほか、今年9月に「P-Lock」と呼ばれる共有端末のカード認証や証跡管理を簡単に行えるオプションを追加。製品強化で販売代理店を獲得する方針だ。
同グループは、NEC系販社の団結力を固める目的で1969年に結成、NECをはじめとして36社が参加している。結成当時は、「NEC」というブランド力を前面に押し出すことで地元での知名度を向上させるという意味合いが強かったが、今では販路の拡大、新しい製品・サービスの創造など、団結の質が変わってきている。(佐相彰彦)
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「全国で通用するか」に挑戦
柱となる製品をメーカーから仕入れてビジネスを手がけている各地域のSIerが、自社製品を軸にして販売網構築に動いているのは、他社と同じ製品を売っているだけでは差異化が図れないからだ。さらに、メーカーの製品にはユーザー企業の要望を満たさないものが多いことを物語ってもいる。機能や価格など複数の要因があるが、とくに地方では、その土地ならではのニーズに対応しなければ顧客開拓が難しい。全国レベルの製品ではなく、地域密着型の製品がポイントというわけだ。
「既存のユーザー企業に対して、他の地域で活躍する地場ベンダーの製品を提案したら、契約が決まった」と話すのは、青森県の青森電子計算センターの井上宏専務。青森県情報サービス協会の副会長も兼ねる同社の井上専務は、協会の会員企業がビジネスチャンスをつかむための取り組みを進めており、その一つが「農業を活発化するためのIT化」だ。自動気温制御システムなどの開発で農産物を1年中収穫できるような仕組みを模索中。商品化の際には、他県にも提供していくという。
「人材のスキルアップでユーザー企業が本当に求めているものを開発していく」。秋田県情報産業協会の会長である近藤和生氏(ADK富士システム社長)の発言だ。同協会では、会員企業の得意技術を精査し、その技術を全国的に売り込むことを計画している。「企業がIT投資を抑えているのは不況の影響だけではない。メーカー製品の開発や提供が中心のわれわれSIerにも責任がある」と、地域密着型をキーワードに技術力を結集する。
このように、各地域ではビジネス地域拡大の取り組みが進んでいる。販売網の構築は製品開発を具現化したことの現れで、不況でIT投資にシビアな今だからこそ、地域密着型という顧客指向の製品・サービスが全国で通用するかを試みるSIerが登場しているのだ。(佐相彰彦)