パソコン工房、フェイス、ツートップをショップ展開するユニットコム(大野三規社長)と並列計算機開発などで実績のある爆発研究所(吉田正典・代表取締役)が共同開発し、2008年10月に出荷開始した「パーソナル・スーパーコンピュータ」と呼べる高性能機器が、高速演算を行う大学の研究機関を中心に脚光を浴びている。CPUの代わりにグラフィックボード(GPU=Graphic Processing Unit)を搭載し、CPUの10倍以上の速度での処理を実現している。ユニットコムは、海外からパーツを安価に輸入できる販売店。その強みを生かし、マザーボードやGPUなどを組み立てて製品化した。事業仕分けで“スパコン論争”が起きる最中、高価なスーパーコンピュータに代わる汎用的な市販機として研究機関に限らず一般企業向け市場にも風穴を開けそうな商材だ。
大学の「並列計算」現場へ浸透
一般企業をターゲットに波及も
高速処理機を安価に提供 安価で汎用的に使える「パーソナル・スパコン」と呼べる両社の「GPGPU(General Purpose Graphic Processing Unit)」向けハイパフォーマンスワークステーション「Bakusoku」シリーズは、08年10月の発売以来、大学や研究機関を中心に数百台が販売されている。同シリーズは、並列計算機の開発・販売を行う爆発研究所と共同開発した。独立行政法人の「産業総合技術研究所」に在籍していた現代表取締役が独立して06年8月に設立した爆発研究所。産総研時代は、同じくユニットコムと共同で手がけた「Bakooクラスタ」が、03年11月の世界の計算機性能ランク「TOP500 Supercomputer Sites」で349位の入賞を果たしている。
「GPGPU」とは、パソコンに搭載されて画像処理の用途やゲーマーの間で使われているグラフィックボードのGPUがもつ高度な並列計算に強い特性を生かし、大量の計算を必要とす
る分野でGPUを使う仕組み。「絵を描くこと以外の用途でGPUを使う」という意味で「GPGPU」という言葉が使われている。

GPGPUワークステーション「Bakusoku」。グラフィックカード搭載で処理速度が“破壊的”に速い
「Bakusoku」は検証向けのエントリーモデルから複数のGPUで並列計算を行うハイエンドモデルまで6製品をラインアップしている。グラフィックボードには、NVIDIAの「Tesla」「GeForce」を搭載。爆発研究所の吉田代表取締役は「『GeForce』を使うことで、『Bakusoku』はその名の通り、“破壊的”な速さを実現した」と話す。同製品はユニットコムのグループ会社、アイシーエムカスタマーサービス(島根県出雲市)で生産・出荷している。「グラフィックボードを搭載して同じような製品を作ることはできるが、研究機関などに見合う性能評価やサポートなどは爆発研究所のような専門機関でないと実現できないし、何より安価に提供することは難しい」と、ユニットコムの菅原師人・法人事業部営業企画課次長は優位性を語る。
両社では、GPGPUを始めるユーザーに対して、Linux、CUDA(C言語ベースのGPGPU開発環境)のインストールを施し、プログラミングサポートをワンセットにしたサポートメニューも用意している。「GPGPU」は大学の学術分野を中心に計算流体力学やイメージングなどへの応用で注目が高まっている。これまでに両社は、東京や大阪、長崎などの大学や研究者向けに全国8か所でGPGPUセミナーを開催し、積極的な“オルグ活動”を展開しているが、導入コンサルを含め、あらゆる要望に応えられる体制が整っていることを訴え、同製品の導入を促している。
一般企業にも広がりをみせる スパコンや両社のGPGPUなどハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)の国内市場は、400億・500億円といわれている。しかし、大手メーカーが生産するスパコンは非常に高価で、大学の1研究機関が導入するにはハードルが高い。爆発研究所の吉田代表取締役は「スパコンを導入できない研究機関などは、クラスタリングを組んで急場を凌ごうとしているが、これでもコストがかかる。スパコンも自由度が低く、チューニングしたいユーザーには向かない」と、実状を語る。これに対し、両社で開発した「Bakusoku」は、これらの課題を解決し、「スパコンのメーカー市場に参入できる商材だ」(同)と、汎用的に売れ、HPC市場を拡大できると期待する。

東京・秋葉原のパソコン工房1階にある「HPC+GPUショールーム」(左から爆発研究所の吉田正典代表取締役、ユニットコムの菅原師人次長らGPGPUの開発・販売に携わる方々)
実際、大学の研究機関だけでなく、金融業や製造・造船業、建築業といった一般企業で、システムや製品のリスクマネジメント計算やファクトリー・オートメーション(FA)の出荷検査など、研究以外の分野からもオファーがきているという。ユニットコムでは「いまのところ、(システムベンダーが販売するような)商用ベースには乗せずに、直接案件を探して提供している」(菅原次長)としているが、将来的には流通ルートで販売することも視野に入れている。
行政刷新会議の「事業仕分け」では、スパコン事業にいったん「廃止」の烙印が押された。その後、政府判断で事業継続が打ち出されたが、ここで開発される高価なスパコンを基礎研究だけでなく、汎用的に国内産業発展に生かす議論はなされていない。並列計算をより簡単に安くできる仕組みとして、「Bakusoku」に対する産業界の期待が高まることは確かだろう。