【北京発】NTTデータ(山下徹社長)の中国拠点が質的変化を遂げようとしている。日本から発注するオフショア開発がメインだった中国拠点だが、ここへきて欧米にあるNTTデータのグループ会社や中国地場の開発案件が急増。中国で最大規模の現地法人・北京NTTデータシステムズインテグレーション(北京NTTデータ)の玉置政一総経理は、「受注が殺到し、人員拡充が追いつかないほど」と、うれしい悲鳴を上げる。NTTデータは、中国での運用サービスの拠点拡充も検討。中国がNTTデータが仕掛けるグローバルビジネスの開発・運用拠点へ変貌しようとしている。
運用サービスにも要望強まる
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玉置政一 北京NTTデータ総経理 |
直近で約650人の人員を擁する北京NTTデータは、これまで日本からのオフショア開発案件の売り上げが全体の9割以上を占めていた。ここ数年、日本からの発注量は右肩上がりで拡大しているが、ここへきて米国で業績を伸ばすNTTデータのグループ会社リビアや、ドイツのグループ会社アイテリジェンスなど欧米系のオフショア案件が増加。さらにNTTデータは、中国上海・杭州エリアで保険や銀行、クレジットカードなどに強いソフト開発会社を合弁やM&Aなどで拡充しており、ここからの地場系金融SI案件が急増する様相を示している。
欧米に本拠を構えるNTTデータのグループ会社は、インドなどに大規模なオフショア開発拠点をもつIBMやアクセンチュアと熾烈な受注合戦を繰り広げており、コストの削減は競争力向上に欠かせない要素となっている。日欧米の拠点で開発・運用を手がけていては、グローバルのコスト競争に勝てない。NTTデータはインドでもオフショア開発体制の整備を目指すものの、「今の段階ではっきり決まっていることはない」(NTTデータの榎本隆副社長)と、少し時間がかかる模様。目下のところ北京NTTデータを中心とする中国オフショア体制が最も充実しており、「日欧米中の世界4か所の開発案件が集中する可能性がある」(北京NTTデータの玉置政一総経理)としており、気を引き締める。
北京NTTデータは、2012年をめどに人員体制を今の2倍に拡充することで対応する方針を示す。だが、09年は、グループ会社のNTTデータイントラマートが上海に拠点を開設。同社はNTTデータの戦略ERP製品「Biz∫(ビズインテグラル)」のプラットフォーム会社でもあることから、北京NTTデータではここに90人ほどの人員を移管した。こうした事情から、開発案件が増加するなかで人員の不足感がいっそう強まる状態になっている。すでに、北京など大都市圏ではライバル他社と優秀な人材の奪い合いの状態で、同社では中国での地方拠点の開拓も視野に入れる。
また、ソフト開発だけにとどまらず、システムの運用・監視を中国拠点でカバーしてほしいという要望も日増しに強まっている。しかし、北京NTTデータは開発中心で成長してきただけに、「運用の経験に乏しい」(玉置総経理)と、渋い表情を浮かべる。人員確保や地方都市への開発拠点の展開といった課題に加え、運用拠点をどう拡充するのかという新たな課題を抱えている。
NTTデータは、無錫華夏計算機技術のデータセンター(DC)を拡充し、まずは「NTTデータグループ向けのシステム運用・監視を通じた人材育成を検討する」(榎本副社長)と、中国での運用体制を拡充する方針を示す。日系SIerのなかでは今年4月、ITホールディングスTISが天津に最新鋭DCを開設するなど、運用サービス系の設備投資が拡大。NTTデータグループも中国での運用・監視系の人材育成やDCなどの設備確保を急ぐ必要に迫られている。中国を拠点とした運用系サービスを拡充するには、国際通信ネットワーク帯域の確保が不可欠。NTTコミュニケーションズなど、通信を本業とするNTTグループの総合力の発揮も求められる局面に直面している。
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パートナー集団の形成も選択肢に
情報サービス産業のグローバル化に伴い、情報システムの設計と製造工程の分離が避けられない状況になっている。世界で受注して、中国やインドなどで製造する。IBMやアクセンチュアなど世界大手はすでにこうしたグローバルでの最適化を推進し、高い競争力を確保している。
世界24か国・71都市余りに広がるNTTデータグループ各社からは、すでにこうした要望が挙がっており、この結果として北京NTTデータシステムズインテグレーション(北京NTTデータ)に開発案件が集中している。北京NTTデータでは、これまで自力での人材採用・育成を行ってきたが、早晩、事業拡大のスピードに追いつかなくなる印象を受ける。また、今は右肩上がりで伸びているが、今後、需要が増減するようなことが起きれば、自社のSE人員の稼働率低下による収益低下を招きかねない。
日本国内では、複数の開発パートナーと連携する体制が需要増減の調整弁の役割を果たしてきた。中国でも、早い段階でこうした仕組みが求められるだろう。NTTデータのコアパートナーで、有力SIerのDTSは、すでに上海地区で多数の地元開発パートナーを抱える。主に現地の日系ユーザー企業のSIビジネスを意欲的に手がけており、北京NTTデータからの仕事はまだ本格化していないとみられるが、将来を見通すと、例えばDTSなど、NTTデータのコアパートナーが中核となり、中国でも日本同様の開発パートナー集団を形成する選択肢もあり得る。
国内では多重下請け構造の弊害を指摘する声も根強くある。もちろん、海外で同様の多重構造をつくるというわけではない。業種ノウハウや専門的な技術をもつベンダーが横の連携を図るというものだ。先細る日本国内の開発案件を“座して待つ”のではなく、海外へ果敢に進出。グローバル化する情報サービス産業の設計・製造工程の枠組みに積極的に参加することが、国内のSIerに求められている。(安藤章司)