政府の行政刷新会議による「事業仕分け」の第二弾が終わった。物議をかもした「スパコン事業の事実上の廃止」(後に撤回)があった第一弾とは異なり、第二弾ではIT業界に影響がありそうな目立った動きはなく、静かに幕を下ろした印象が強い。だが、そのなかでも、俎上に乗せられた組織がある。独立行政法人の情報通信研究機構(NICT)だ。
NICTは、情報通信技術の国内唯一の調査・研究機関で、総務省が管轄する。歴史は古く、母体である通信総合研究所から数えれば、今年で116年目を迎える。国としての競争力を高めるための先進技術を開発し、それを国家のIT戦略、民間企業へのビジネス拡大に結びつけるのが仕事だ。
その老舗団体の事業で、仕分け対象になったものが三つあるが、そのなかでも注目を集めたのが「新世代ネットワーク技術の研究」。NICTが中核に位置づけている取り組みだ。データ送受信量の増大や、それに伴うネットワーク機器の電力消費量増加、IP(インターネットプロトコル)の不足を解決するための手段として、新たなネットワーク基盤を構築するための調査・研究事業である。
事業仕分けの議論で、NICTは先進技術について専門用語を並べて研究成果を主張した。世界最速インタフェース速度640Gpsの光パケットスイッチプロトコルの開発や、ミリ周波数を用いた速度1Gps以上のパーソナルエリアネットワークシステムの無線伝送方式が国際標準に採用されたことなどを説明した。しかし、今回の事業仕分けで、この事業は「縮減」とされた。
その主な理由は、その投資対効果とユーザーにもたらす価値の不透明さにある。事業仕分けチームによれば、NICTはこれまで同事業に2000億円を投じているという。また、今後10年間でも同様に2000億円を投じる計画を示している。その投資に見合う効果を示し切れていない点を指摘された。また、「一般社会およびエンドユーザーが得られるメリットの具体性に欠ける」点も縮減につながった理由になった。今回の結果について、NICTの広報担当者は「まだ仮決めの段階。具体的な縮減計画も示されていない現段階では、何もコメントできない」と口を閉ざした。
データ量の増大やインターネットに接続する機器が増加すれば、現行のネットワークインフラでは持ちこたえられなくなるのは事実。NICTが推進する新世代ネットワーク技術の研究活動は必要だ。とはいえ、具体的なメリットと投資対効果を求める行政刷新会議の考えも理解できる。NICTがこれまでのような専門用語ばかりの説明に終始し、具体的な成果を示すことができないなら、日本のネットワーク技術はまた他国に遅れをとりかねない状況に陥ることになるだろう。(木村剛士)