リコー御殿場事業所(静岡県御殿場市)は、1985年の設立当初、アナログのモノクロ複写機を生産していた。現在は、デジタルフルカラー複合機(MFP)などを生産し、「新しい製品を御殿場で立ち上げて海外生産拠点へ展開している」(佐竹宏・御殿場事業所長)という。最先端製品の一大生産拠点である御殿場事業所で展開されているカイゼン活動の実際を、2010年6月18日に取材した。
部品・工程間物流を「見える化」
御殿場事業所の特色は、生産現場におけるムリ・ムラ・ムダが徹底して排除されていることにある。生産は「固定・変動」の方式を採用。つまり、ユニット製品と本体製品を可能な限り固定・共通化してコスト削減を図る一方で、変動の領域ではユーザーニーズをできるだけ取り入れているのだ。
生産工程では、ユニット製品だけの組み立てと、本体製品の生産を同期させることで、工程間の仕掛品をなくす「工程間同期化一コ流し生産」を実践。これにより、無駄なスペースを削減し、リードタイムの短縮を可能にした。トラブルが発生した場合に問題点が顕在化しやすく、部品・工程間物流の「見える化」に向けた生産体制となっている。仕掛品をゼロにすることで、原価の大幅な改善効果が現れたという。
そのほか、「見える化」に向けた工夫として、RHM(リライタブルハイブリッドメディア)を導入。RFID化することで、バーコードの読取作業が不必要なったことに加え、トレーサビリティ効果が見込めるという。

製品の出荷に向け、点検を進める
カイゼン活動で生産効率向上
生産現場のカイゼンにも精力的に取り組んでいる。作業価値の有無を明確に分け、道具立て(生産ツール)を導入することで生産効率を向上。取材では、ネジを手に取ってビットに付け、対象物に締めるという一連の作業の時間短縮に成功した生産ツールの活用例が紹介された。
製品に対し、価値を生む(有価)作業と考えているのは、対象物にネジを締める時だけ。一方で、それ以外の作業は価値がない(無価)作業と位置づけた。自動ネジ締め機を活用し、両手で同時に作業を進められるようにしたことで、従来は29秒程度かかっていた作業時間を、9秒にまで短縮できた。
目視で製品ラベルの貼り間違いや歪みをチェックしていた工程には、CCDカメラと画像認識装置を導入し、人為ミスを防止。そのほか、欠品や部品の誤使用防止ツールなどの工夫が随所にみられる。
生産ツールを活用した作業は、実際に素人がやってみると意外と難しい。熟練工の技術があってこそ、生産ツールが最大限に効果を発揮するのだ。現場でのカイゼン活動は、全国の拠点で共有し、グローバル規模で水平展開している。
御殿場事業所は、エコ活動の展開に熱心だ。製品の納入作業にあたって、何回でも再利用ができる「循環型エコラック」やコンベアを使わず、ライン搬送のエネルギーを削減する「オンライン生産方式」を採用している。
2009年10月からは、デジタルフルカラーMFPのサービスパーツの回収リサイクルを開始した。工場内では、照明器具を低くして作業担当者の近くに配置することにより、作業効率を向上すると同時に、省電力化を図ることができた。
生産効率や品質の向上には、生産現場の人材育成も欠かせない。工場内では、スキルアップ体制の充実に向けた環境整備を進めている。現場担当者からは、「現場のカイゼンは、容易に実現できるわけではない。効率化の仕組みと合わせて、従業員のスキルアップも大切」という説明があった。
工場内に設けた人材育成機関である「GPD(Global Professional Development)道場」は、改善の基礎技術から高度技術まで、幅広く実践できる人材を育成。カイゼン活動の柱として活躍が期待されている。(信澤健太)

開講中のGPD道場