仕事の進め方を劇的に変えたパソコンだが、企業の情報システム管理者にとっては悩みの種でもある。サーバーやネットワーク機器、プリンタと異なり、台数が膨大なだけに、それを管理するのに手間がかかるからだ。手作業での管理は事実上不可能で、ツールの導入は必須。PC資産管理ソフト市場は、その流れを受けて立ち上がった。ITベンダーにとっては、業種・業界、企業規模を問わずに提案できるPC資産管理ソフト。その市場の今を俯瞰する。(文/木村剛士)
figure 1 「市場規模」を読む
成長の余地あり、CAGRは9.5%
PC資産管理ソフト・サービス市場が、日本で本格的に立ち上がったのは10年ほど前。「個人情報保護法」や“日本版SOX法”などで、市場は一気に伸びた。10年が経過して成熟分野とみる向きもあるが、まだまだ伸びそうだ。市場規模は、2008年が294億4500万円だったのに対し、2014年には507億2200万円に達する見通しだ。08年から14年までの年平均成長率(CAGR)は9.5%。IT産業全体の伸び率が2~3%であることを考えれば、有望分野だ。コンピュータ関連の調査会社テクノ・システム・リサーチの藤崎武志・シニアアナリストは、「国内企業におけるPC資産管理ソフト・サービスの導入比率は66%とみている。しかし、この数字は購入した企業をベースに算出している。購入したとしても、使っていないユーザーも結構多い。“利用企業数”という観点でみれば、もっと数字は低い。それを考慮すれば、さらに成長が見込める」。新規に加えて、買い替え需要も見込めるというわけだ。マーケットはまだ飽和していない。
PC資産管理ソフト・サービスの市場規模
figure 2 「利用方法」を読む
中小企業は利用機能が限定的か
PC資産管理ソフト・サービスは、PCのインベントリ(CPUの種類やメモリ・HDDの容量、IPアドレス、インストールソフトの種類・バージョンなどの情報)収集という基本機能だけでなく、ソフトウェアの一括配布やログ(操作履歴情報)収集・解析、利用制限など複数の機能をもつのが一般的。メーカーによっては、各機能を有償オプションにし、切り売りしているケースもある。図では、各機能の利用状況をユーザー企業の従業員数別で分けて表した。ソフトウェア資産管理(SAM)機能は、従業員規模によって大幅に利用率が異なることがわかる。また、従業員数が減れば減るほど各機能の利用率は下がるが、企業規模を問わず全体でみると、インベントリ情報取得(資産管理)機能以外は、利用率が50%を割っている。メーカーは競争力を高めようと機能追加に躍起になっているが、ユーザーはそれほど多くの機能を利用していないという実態が浮き彫りになっている。
PC資産管理ソフトの利用状況
figure 3 「適正価格」を読む
月額課金は1000~1500円が相場か
PC資産管理ソフト・サービスは、ソフト産業のなかでも異色で、外資系メーカーよりも国産メーカーが強い。市場では、約25社ほどのメーカーがしのぎを削っている。機能での差異化が難しくなってきただけに、価格の叩きあいによる消耗戦も始まっている。ユーザー企業が求める価格帯はどの辺りか。図で示したように、パッケージは範囲が広く、1ライセンス5000円~1万5000円が相場になる。その一方で、月額課金のサービス型では顕著な数字が現れている。1000円~1499円が突出しているのだ。テクノ・システム・リサーチの藤崎シニアアナリストはこう分析している。「月額で1ライセンスあたり1000~1500円の金額が取れるとなると、数が膨大なだけに、ITベンダーにとっては大きな安定的収入になるだろう。しかし、単純にソフトを提供するだけでは、ユーザーはこの金額は支払わないことが調査でわかっている。では、何が求められているのか。ユーザーはPC資産の管理業務を丸ごと任せたいと思っている。ソフトに加えて、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)のようなサービスを付加できるベンダーが成長するだろう」。PC資産管理ソフト・サービスの競争力は、今後、ソフトの機能ではなく付随の業務代行サービスに左右されるという見方だ。
PC資産管理ソフト・サービスの適正価格
figure 4 「チャネル」を読む
大塚商会、NECフィールディング強し
他のソフト分野と同様に、PC資産管理ソフト・サービスもメーカーは間接販売を主体にビジネスを展開している。メーカーからソフトバンクBB、ダイワボウ情報システムといった大手流通事業者に流れ、SIerやITサービス事業者が、これらの流通事業者から製品を調達してユーザー企業に届ける構図に変わりはない。有力な販社は、独立系でいえば、筆頭にあがるのが大塚商会だ。中小企業への販売に強く、複数メーカーの製品をユーザーのニーズに応じて販売しているだけでなく、月額課金サービスでは独自ブランドのサービスも立ち上げている。コンピュータメーカー系列で強いのは、富士通マーケティングやNECフィールディング、日立ソリューションズだ。MFP・プリンタメーカーの系列でいえば、リコージャパンやキヤノンITソリューションズが強い。NECフィールディングは自社開発製品ももつが、他社製のPC資産管理ソフトを複数扱っており、異色の存在だ。SaaS型のサービスでは、ソフトバンクBBがユニークな存在。自社でSaaS型サービスのブランドで「TEKIPAKI」というサービスをもっており、クオリティの製品を活用して自社ブランドとしてサービスを展開。パッケージではなく、傘下にいる販売会社を通じて販売し、着々とユーザー数を伸ばしている。
PC資産管理ソフト・サービスの主な販社