企業内のシステムから必要なデータを抽出し、意思決定を支援するビジネスインテリジェンス(BI)は、専門スキルが要求され、しかも高額で、これまでごく限られた企業や部門にしか導入が進まなかった。しかし今、全社的に情報を統合し、現場の全社員が簡単に分析、活用できるBIが開発され、需要が高まっている。導入のすそ野も徐々に大企業から中堅・中小へと広がりつつあり、モバイルデバイスへの対応が進む。(文/鍋島蓉子)
figure 1 「市場動向」を読む
現場社員も利用する「情報統合基盤」に
企業内にある業務システムに蓄積されるデータをもとに意志決定を支援するビジネスインテリジェンス(BI)は、ETL(Extact/Transform/Load)、DWH(データウェアハウス)といったバックヤードのシステムとフロントの「BIツール」を利用して、情報を収集、蓄積、加工、分析、視覚化する一連のソリューションから成る。国内では1990年代に登場。当初は、小売業や通信事業者、金融など、一部の企業がトライアル的に導入するというものだった。利用には専門スキルが必要とされ、非常に高額なシステムとして、実際に利用する人もごく限られていたようだ。それが今、現場も含めて全社員が利用する「情報統合基盤」として構築し、さまざまな情報をもとにした予測/シミュレーションによる迅速な意思決定を行うツールとして導入するという新たな流れが生まれている。iPhone/iPadなどのモバイルデバイスへの対応を強化することで、意思決定の速度はより速くなっている。
BIシステムの概要
figure 2 「プレーヤー」を読む
BIはプレーヤーが幅広く、DWHは専用マシン化
BIの市場では、大手コンピュータメーカーなどによる専業ベンダーの買収が相次いだ。現在、BI関連の製品を提供しているのは、マイクロソフト、オラクル、IBM、SAPなど、外資系の雄。また、独立専業ベンダー大手であるマイクロストラテジー、新興のクリックテックなど、たくさんの選択肢がある。BIツールは、国内ではウイングアークテクノロジーズの「Dr.Sum」が、ライセンス販売数でトップ。金額シェアではSAPのBusiness Objectsが1位だ。
一方、DWHをみると、大量データの高速処理を実現する専用アプライアンス化が進んでいる。直近ではマイクロソフトとHPの協業による大規模DWH専用マシン「HP Enterprise Data Warehouse Appliance」が登場している。BIシステム構築のうち、7~8割はバックヤードシステムの構築費用で占められる。非常に高額で導入も難しかったが、アプライアンスの登場で、その敷居は少しずつ下がりつつある。
主要BI製品ベンダーと製品
figure 3 「売り手」を読む
力を入れる製品はベンダーで異なる
基本的には、顧客の要望などによって導入する製品が変わってくるので、ベンダーは複数製品を取り扱うケースが多いが、そのなかでも力を入れる製品は異なる。NTTデータ先端技術をはじめとするNTTデータグループは「Oracle BI」「SAP Business Objects」「Microstrategy」などのBI製品やオープンソースのBIツールなどを取り扱い、アセスメントを行うなどして、顧客ニーズに合わせた最適な製品を販売している。一方、日立ソリューションズでは、90年代後半から、現SAPのBI製品「Business Objects」を取り扱っており、これまでに300社弱の導入実績をもっている。
日本情報通信は、2000年初頭から現「IBM Cognos」製品を手がけてきた。同社はIBM製品を組み合わせることで、データの発生源から情報の視覚化までについてシームレスなBIシステムを提供している。当初はCognos製品を取り扱っていたという独立系SIerのクロスキャットは、2007年から、オラクルのBI製品のマーケティングプランをオラクルと共同で立案したことをきっかけにして、それ以来、オラクル製品の販売に力を入れている。およそ50人の専任部隊を結成し、販売に専念している。
BI関連製品の主要な売り手
figure 4 「取り組み」を読む
売り手がすそ野を広げる取り組み
昨年の夏、日本情報通信やクロスキャット、ジール、ブレインチャイルドが、中堅市場でのBIビジネスの活性化を図るために、パートナーネットワーク「BEC」を立ち上げた。BIシステムの構築に携わってきた4社の“老舗”ベンダーを「サポートメンバー」として、主にIBMのCognosを取り扱うリセラーの中堅市場拡大を支援していく取り組みで、4社はIBMが特定ソフトウェア製品を取り扱うパートナーの技術や設備、経験を認定する「Software ValueNet」を保有しており、このような実力派が集まっている。
老舗ベンダーがBI製品のメーカーとリセラーの間に入って、彼らがメーカーとリセラーの橋渡し役となる。長年培った提案・構築のノウハウや技術支援をリセラーに提供して、一方では現場から上がってきた要望をメーカーにフィードバックしていく。BI製品のメーカーは4社の老舗ベンダーで構成する「サポートメンバー」に技術支援を行い、リセラーには営業支援とマーケティング支援を提供するというトライアングルの協業体制だ。中堅・中小企業には、まだまだ本格的にBIが入っていない。BIのすそ野を広げるための、業界横断的な取り組みを展開しており、その活動ぶりに注目が集まっている。
中堅・中小企業にもBI製品を拡販