中国有力SIerの東忠集団(丁偉儒董事長)は、日本のSIerやITベンダーと組んで、中国杭州市にあるシステム開発拠点の人員を2012年末までに今の約2倍に相当する3000人規模に拡大する。中国の情報サービス市場の拡大が続いていることに加え、日本の情報サービス業の中国市場への進出意欲が高まっているためだ。東忠集団は、山東省済南市に2か所目となる大規模なシステム開発拠点を開設する準備を進めるなど、日系ベンダーとの連携を拡大する。(安藤章司)
システム人員を倍増の3000人規模へ
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| 丁偉儒董事長 |
東忠集団は、NECグループやNTTデータ、富士ソフトグループ、シーイーシーなど日系ベンダーと合弁事業を立ち上げて急成長しているSIerである。中国浙江省杭州市に約5万m2の広大な土地に東忠テクノロジーパークを開設し、日系ベンダーのオフショアソフト開発やアウトソーシングサービスを請け負うことで売り上げを伸ばしてきた。しかし、日本からのオフショアソフト開発の案件が伸び悩む状況が続く見通しであることから、東忠集団は日系システムベンダーの中国市場への進出支援プラットフォームづくりを事業の主軸へと転換。中国市場への進出を狙う日系ベンダーとの方向性が一致し、ビジネスが大きく拡大する気運が高まっている。
現在、合弁事業を手がける日系ベンダーは、従来のアウトソーシング型の会社も含めて9社あり、2012年3月までには12~13社に増える見込みだ。中国市場で迅速にビジネスを立ち上げるには、まずは開発や運用に携わる人員を確保しなければならない。日系ベンダーにとって、これは先行投資であり、多くのSIerが「仕事の確保が先か、人員の確保が先かのジレンマに陥る」(大手日系SIer幹部)ケースがみられる。東忠集団はここに目をつけて、仕事の量に応じて開発や運用の人員を合弁会社と融通する“東忠プラットフォーム”の構築に力を入れてきた。ニーズは旺盛で、直近の人員は約1500人に増え、2012年末までには3000人規模へ拡充することを計画している。
日系ベンダーが中国ビジネスを伸ばすうえで苦労するのは、中国の商慣習や文化的背景の理解不足、人材の確保、人事労務上の管理などに起因することが多い。そこで東忠集団が優秀な開発や運用人員の確保、オフィス事業所の提供、人材育成や労務管理の支援などを一手に引き受けて、「日系ベンダーの中国ビジネスの迅速な立ち上げを全面的にバックアップする」(丁董事長)ことで、自らのビジネスも伸ばす。合弁事業での東忠集団の出資比率は原則20%以下に抑え、経営の主導権は合弁パートナーに委ねて、自らは黒子役に徹する。
杭州にあるテクノロジーパークは2011年4月に第二期工事が終了し、第一期分と合わせて約5000人を収容できるオフィスビルが完成した。合弁事業会社の売り上げを含むテクノロジーパーク全体の2012年1~12月期の売上高は10億元(約120億円)に増える見込み。日中間でおよそ5倍ある貨幣価値の違いを当てはめると600億円ほどの感覚となり、第一期工事の竣工からおよそ4年で、急成長してきたことがうかがえる。
中国全土で情報化投資が拡大していることや、上海にほど近い杭州地区の人件費が高騰していることなどを受けて、東忠は、2012~2013年には済南市に2か所目のテクノロジーパークの開設準備を進めるとともに、内陸部の四川省成都市や中国東北の吉林省吉林市への進出を視野に入れている。将来的には南部の広西チワン族自治区や西部の陝西省でのテクノロジーパーク開設を構想中である。これらの計画や構想が実現すれば、東忠と合弁事業を手がける日系ベンダーは、中国全土の最も適した場所で、システム開発が手がけられるようになる。丁董事長は、「多くの日系有力ベンダーに“東忠プラットフォーム”を活用してもらいたい」と、広く門戸を広げ、合弁会社を含む全国各地のテクノロジーパーク全体の売り上げの総和で、2017年に100億元(約1200億円)を目指す。

東忠集団のプラットフォーム戦略
表層深層
日本のITベンダーやSIerの実力をもってすれば、中国の情報サービス市場におけるシェア1割を獲得することも夢ではない──というのは、東忠集団の丁偉儒董事長の持論である。IBMやHP、SAPなど欧米有力ITベンダーの中国でのシェアの合計が約2割であることを踏まえて、「日系ベンダーの力を発揮できればシェアの拡大は十分に可能だ」と説く。
中国経済の発展速度の速さには目をみはるものがあり、丁董事長は、「当社が独自でソフト製品やITソリューションの開発をする時間的余裕はない」と判断。そこで、オフショアを通じて関係を深めた日系ベンダーと合弁会社を中国で設立して、合弁事業を通じて商材を揃える戦略をとったのだ。合弁会社にとっては、東忠プラットフォームを活用することで、オフショア開発や中国ビジネスをスピード感をもって伸ばすメリットが得られる。
一方、中国地場のユーザー企業にとって、「東忠は、日系ベンダーの先進的なソフト製品やITソリューションを、中国のどのSIerよりも多く揃えている」と映る。事実、NECやNTTデータ、富士ソフト、CECなど日本を代表するベンダーを誘致し、さらにテクノロジーパークを運営する東忠集団は、中国のユーザー企業からみて“顔が見える”安心感がある。東忠集団は日系ベンダーに事業基盤を提供すると同時に、中国市場開拓のナビゲーション役を担うことで、自らのビジネスと中国における日系ベンダーのシェア拡大につなげていく。