中国では、経済発展に伴うIT投資が急拡大している。2011年は、日本の情報サービス市場規模を上回る見込みだ。また、急速な発展による環境負荷を抑制するために、ITを活用したスマートコミュニティの構築にも意欲的で、関連投資の増加が期待できる。日本のSIerは、中国への進出を強化。製造業や金融など業種ターゲットを定めたり、自らの知見を生かしたコンサルティングなどを展開することで中国ビジネスの拡大を推し進める。(文/安藤章司)
figure 1 「市場動向」を読む
日本を追い抜き、アジア最大の市場へ
中国の情報サービス市場は、2011年に日本を追い抜き、アジア最大の規模に成長する見込みである。ここ数年は年率25%余りで伸びており、2010年は1兆2000億元(15兆6000億円)規模に拡大したとみられている。金融や製造、流通・サービスの主要分野で、高度なITシステムの需要が高まっており、日本の有力SIerの多くが、隣国の巨大市場におけるビジネスの可能性を追求する。今年に入ってからも、シーイーシーが杭州の地場有力SIerの杭州東忠科技グループとの合弁会社事業を本格的に始動。TDCソフトウェアエンジニアリングが初めての海外拠点として天津に駐在オフィスを開設するなど、日系SIerの中国への投資が相次いでいる。また、IT業界全体を見渡すと、中国レノボグループ(聯想集団)がNECとのパソコン事業の合弁会社で主導権を握るといった日中間の協業が双方向で拡大。世界のIT市場の成長エンジンの一翼を担う中国との連携は、もはや止められない大きなうねりになっている。
中国のソフトウェアおよび情報サービス業の売上高規模推移
figure 2 「主要プレーヤー」を読む
主要上場SIerが続々と中国市場に進出
国内SIerの上場上位50社のうち、半数近くが中国市場への進出を積極的に進めている。もともと日本のオフショアソフト開発先の約8割が中国で占められることも背景にあるが、近年は、そのオフショア開発拠点を足がかりにして、中国地場のIT市場の開拓を指向する動きがより顕著になってきた。NTTデータや野村総合研究所(NRI)、ITホールディングス、キヤノンMJアイティグループホールディングス、JBCCホールディングスなど、日本を代表するSIerが中国への進出を加速している。経済発展に伴う環境悪化が社会問題化している中国では、国を挙げて省電力やエネルギーの効率利用に取り組む。総額3.5兆円にものぼる投資規模の「天津エコシティ」構想など、中国主要約100都市でエネルギー効率化を実現するスマートコミュニティを推進する。スマートコミュニティは、ITによる高精度な制御によってエネルギー利用を効率化するもので、ITベンダーの果たすべき役割は大きい。
日系主要SIerの最近の取り組み
figure 3 「形態・地勢」を読む
内陸部でつくり、沿岸部で売る構図
中国の情報サービス業の地域別売上高をみると、沿海部が約8割を占める。形態別でみれば、世界の製造業が集積していることもあり、組み込みソフトウェアが17.6%と高い比率を占める。ソフトウェア製品の売上比率も34.6%と大きく、受託ソフト開発が主要部分を占めてきた日本の情報サービス産業との違いが際立つ。日系SIerの進出先は、首都圏エリアの北京・天津、日本からのオフショア開発拠点が集積する大連地区、中国最大の商都で製造業ベルト地帯を抱える上海とその周辺都市、中国南部に位置する広州地区に集中している。
経済発展が著しい沿岸部のマーケットを求めて営業拠点を拡充する一方、人件費の高騰によってソフト開発のコスト競争力が落ちてきているのも事実。このため、開発は西安や武漢、重慶、成都などの内陸部で行い、営業・販売は沿岸部をメインに位置づけるSIerが増えている。ITホールディングスグループのインテックは、もともと武漢に開発拠点をもち、上海拠点はその下部組織に当たる駐在オフィス的な位置づけだった。だが、2010年12月に上海オフィスを独立させ、インテックの直系子会社「インテック上海」を設立。上海や無錫、蘇州、杭州など上海都市圏を対象に営業エリアを拡大している。
中国のソフトウェアと情報サービス業の形態別・地域別構成比(2009年1~12月)
figure 4 「売り方」を読む
業種別の戦略やコンサル力で強みを生かす
日系SIerの販売手法は、業種や自社の強みの部分を切り口としていことが多い。インテックは、東洋ビジネスエンジニアリング(B-EN-G)と協業し、B-EN-Gの製造業向けERP「MCFrame」をインテック上海の主力商材の一つに位置づけている。インテックと同じITホールディングスグループに属するTISは、もともと強みとしてきた金融やクレジットカード分野に焦点を当てる。また、中国で大きな需要が見込まれる組み込みソフト分野では、富士ソフトやコアといった組み込みソフトをメイン事業に位置づけるSIerが商機を虎視眈々と狙う。電機製品などに組み込まれたソフトが正しく動作するかを第三者の立場で検証するサービスでは、シーイーシーが杭州を拠点として本格的に参入している。
NTTデータやNRIなど大手は、上流のITコンサルティングからの参画を指向する。NRIは、中国におけるユビキタスネットワークの情報通信技術体系「物聯網」プロジェクトへの参画を目指しており、日中双方の企業や大学、研究機関と連携して「中日物聯網推進連盟」の活動を今年1月から本格化させている。ユビキタスやスマートコミュニティなど国家規模のプロジェクトでは、コンソーシアムを組んで超上流から関与するアプローチが重要視される。
主な日系SIerの中国における4大重点分野