製品そのもので差異化しにくい給与管理システム。多くのベンダーが入り乱れる混戦模様となっている。一方で、中堅上位企業の間では、給与業務そのものをアウトソースしようとする動きが活発化。タレントマネジメントシステムの導入機運の高まりやオープンソースソフトウェアに対するユーザー企業の抵抗感の薄れもみられる。独立系ソフトウェアベンダーやシステムインテグレータは、こうした状況に留意しておく必要がありそうだ。(文/信澤健太)
figure 1 「勢力」を読む
混戦模様が続き、シェア変動の可能性は大きい
調査会社のノークリサーチによると、年商500億円未満の中堅・中小企業(SMB)市場でのトップシェアは、オービックビジネスコンサルタント(OBC)の「給与奉行(21/iシリーズ)」で18.8%。弥生の「弥生給与」が16.4%で、僅差で追う展開となっている。トップグループの2社を筆頭に3位以降は、ピー・シー・エー(PCA)の「PCA給与」が6.3%、OSK(大塚商会)の「SMILEシリーズ」が5.3%、応研の「給与大臣」が4.6%となっており、シェアにほとんど差がない。2010年、3位だった富士通・富士通マーケティング(FJM)「GLOVIAsmart人事給与」は、4.1%の6位に後退した。ノークリサーチは、「『PCA給与』は2010年から11年にかけて目立って導入件数が伸びたわけではないが、旧来からの顧客を失うことなく着実に実績を積み上げてきたことが今回の結果につながった」と分析する。製品そのもので差異化しにくいこともあって、混戦模様が続く市場で今後もシェア変動が起こる可能性は十分にある。
年商500億円未満の中堅・中小企業における導入社数シェア
figure 2 「運用形態」を読む
中堅上位企業で給与業務をアウトソースする動き
ノークリサーチの調査によると、「パッケージを自社で購入し、社内人員にて運用」する形態が全体の72.4%を占めた。「自社向けに独自開発し、社内人員にて運用」が13.5%だった。新規導入予定では、「パッケージを自社で購入し、運用をアウトソース」が7.1%から15.4%に増加し、「自社向けに独自開発し、社内人員にて運用」が横ばいという結果が出た。ノークリサーチは、「パッケージへの遷移は一段落した状態。ユーザー企業が外部委託による運用・管理コストの削減を図ろうとする動きがみられる」と指摘する。ASP/SaaS形態は、導入済みが2.2%の一方で、新規導入予定が3.8%に微増した。ただし、「給与業務そのものをアウトソースしようとする年商300億円以上の中堅上位企業などに限定された動き」とノークリサーチが分析するように、中堅企業を中心にビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)サービスを手がけるラクラスやエフエムの製品の導入が検討されているものとみられる。
現在の運用形態と新規導入予定
figure 3 「ポジション」を読む
商流は千差万別、製品評価はおしなべて高い
有力な販売チャネルとして、事務機ディーラーとメーカー系SIer、独立系SIer、家電量販店が存在する。PCAやOBCは、事務機ディーラー経由の販売が多い。一方で富士通・FJMやOSKは、それぞれグループ企業であるメーカー系SIerと独立系SIerの販売力が強い。従業員10人未満の小規模企業・SOHO市場でトップを走る弥生は、家電量販店の店頭販売が主流となっている。年商帯別に有力ベンダーを分類すると、小規模・SOHO市場は弥生やソリマチ、中小企業市場はOBCに加えてPCAやOSK、応研、中堅企業市場は富士通・FJMのほかにBPOサービスを手がけるラクラスなどが挙げられる。
ノークリサーチによると、「導入/サポートの価格」で最も評価が高いのが応研の「給与大臣」で、OBCの「給与奉行(21/iシリーズ)」やOSKの「SMILEシリーズ」などの上位シェア製品も軒並み高い評価を受けた。「機能の充足度」でも製品間の差はそれほどみられず、多くのユーザー企業が現状に満足している様子がうかがえる。満足度は、おしなべて他のシステムと比べて高い平均値を示した。評価に差が出たのが「カスタマイズ容易性」で、ウィザード形式で独自機能を盛り込める「SMILE Custom AP Builder」を用意するOSKが高い支持を集めている。
「導入/サポートの価格」に関する満足度
figure 4 「トレンド」を読む
タレントマネジメントシステムやOSSが有望
近年、大企業を中心に導入が進んでいるタレントマネジメントシステムの市場浸透に伴って、給与管理システムを提供するベンダーに新たな商機が生まれる可能性がある。このシステムは、人件費の管理や業務処理ではなく、“人づくり”に重きを置いたアプリケーションの統合スイートである。サクセスファクターズジャパンやサバ・ソフトウェア、シルクロードテクノロジーなどの新興の外資系アプリケーションベンダーのほか、SAPジャパンや日本オラクルが主要なプレーヤーとして挙げられる。シルクロードテクノロジーは、給与管理や就業管理に関して国内ベンダーとの協業に前向きで、得意分野を分け合うWin-Win関係の構築が期待できる。既存の人事管理システムや給与管理システムを販売するSIerにとっては、新規需要を見込める有望商材として提案の幅が広がりそうだ。
このほか、オープンソースソフトウェア(OSS)の動向が少なからず市場に影響を与えそうだ。ノークリサーチによると、OSSベースの独自開発システムはベンダーの製品/サービスと同程度、あるいはより高い評価を得ているケースがある。「販社やSIerは、ソリューションの質を下げずに価格を抑えるための手段として再びOSSに注目しつつある」という。
給与管理システムに影響を与えるタレントマネジメント