人事管理システムは、クラウドの波にさらされている。基幹業務領域では比較的SaaS化しやすいといわれてきた。準大手・中堅企業市場ではSaaS・BPOソリューションが続々と登場し、競争が激化。一方、中小企業市場はパッケージ販売が主流で、企業規模別に異なる特徴がみられる。近年は、企業のグローバル進出やキャリア開発のニーズ、ワークスタイルの多様化などもあり、人事管理を取り巻く状況は刻々と変わっている。(信澤健太)
figure 1 「勢力」を読む
「人事奉行」がトップを走る
中堅・中小企業(SMB)市場の調査に強いノークリサーチによると、年商500億円未満のSMB向け人事管理システムの導入社数シェアは、オービックビジネスコンサルタント(OBC)の「人事奉行」が17.2%でトップを走る。後を追うOSKの「SMILEシリーズ」が11.0%、富士通・富士通マーケティング(FJM)の「GLOVIAsmart人事給与」が9.2%で続く。「年商100億円未満の企業の新規導入予定で多いのは『人事奉行』と『SMILE』。年商100億円超で強いのは『GLOVIAsmart人事給与』だ」(ノークリサーチの岩上由高・シニアアナリスト)。人事管理システムの提供形態は、専用パッケージとERPパッケージ、SaaSの三つに大別される。ノークリサーチではこのうち、システム間連携を前提にERPの一機能としてパッケージ導入する傾向が加速化していると分析。ただし、年商50億円未満の中小企業は単体での導入が多く、「人事奉行」が多くの支持を得る結果となっているという。
人事管理システム製品/サービスのシェア
figure 2 「競合関係」を読む
準大手・中堅企業市場で競争が激化
SMB市場のトップグループは他の基幹業務システム導入社数シェアでも常連の企業が多く、OBCはとくに年商100億円未満の企業に強い(ノークリサーチ調査)。比較的規模の大きい準大手・中堅企業向けでは、日立製作所やNECなどのERPメーカーのほか、人事・給与分野を得意とする専業メーカーなどが数多くひしめいている。従業員1000人以上をメインターゲットにする専用パッケージメーカーのカシオヒューマンシステムズ(CHS)やSaaS/BPO事業を展開するラクラスなどが顔をのぞかせる。このほか、人事・給与分野に強く、ASP/SaaS提供しているエフエムやアマノビジネスソリューションズなども控えており、メーカーや提供形態はバラエティに富む。「SaaS型アプリケーションベンダーのクロスヴィジョンインターナショナルは外資系企業の給与体系・商慣習に対応していて外資系企業に強い」(アイ・ティ・アールの藤巻信之シニア・アナリスト)など、特定の業界・業種・企業に特化して支持を得ているメーカーも存在する。
各メーカーの中心ユーザー層、強みとする企業規模
figure 3 「利用形態」を読む
主流はパッケージ利用、ASP/SaaSは少数派
ノークリサーチによると、SMBで最も多い利用形態は、パッケージを自社で購入して社内人員で運用する方法で、全体の54.3%を占める。パッケージを自社で購入して運用をアウトソーシングする企業は12.9%。独自開発は、社内での運用とアウトソーシングする場合を合わせて28.3%となっている。ASP/SaaS形態の利用はわずか2.4%にとどまるが、基幹業務領域のなかでは財務管理や生産管理などよりもシステムの独立性が高く、比較的SaaSとの親和性が高い。こうした見方があるなか、岩上シニアアナリストはSMBのSaaS普及には懐疑的な立場をとる。「情報の秘匿性の観点からASP/SaaSは普及するとは考えにくい」。加えて、自社内運用+システム面のルーチンワークを外部に委託のほうがコストメリットが高くなる、と説明。ただし、給与明細発行や出退勤管理などの特定業務のみを切り出した「追加ニーズをサービスで補う」かたちでのSaaS利用は少なくないという。一方で、比較的規模の大きい企業は、人事管理システムのSaaS化のコストメリットを享受しやすく、導入事例も多くみられるようだ。つまり、SaaSは企業規模に応じて「既存システムを補完する意味でのSaaS活用」と「人事業務全体のアウトソーシングに近い形態をとるもの」に、その利用形態が分化していくと分析している。
人事管理システム製品/サービスの利用形態
figure 4 「可能性」を読む
人事管理の多様化が成長を後押し
大手企業を中心に、間接業務を子会社化して共有サービスとして提供するシェアードサービスや、SaaS、BPOの流れが加速化していく可能性がある。中堅企業向けでは、FJMが財務管理システムに続いて人事管理システムのSaaS提供を開始する方針を明らかにするなど、SMBにとってはサービスの選択肢が増えてきている状況だ。興味深いのは2010年に日本市場に参入したSaaS型アプリケーションメーカーの米シルクロードテクノロジーの動きである。同社のサービスは多言語・グローバル対応しており、日本人社員だけでなく現地採用社員も含めて一元管理することで、企業のグローバル展開のニーズを取り込もうとしている。サービスは人材の能力開発などに力点を置き、給与計算などは他社とのアライアンスで補完する方針。能力開発という点では、国産メーカーの間でも性格や人柄などの定性情報をデータベース化するパッケージをCHSが販売するなど、人事・給与のコア部分以外で付加価値をつける動きがみられる。なお中小企業は、給与パッケ-ジやExcel管理で間に合わせているケースが少なくない。ピー・シー・エー(PCA)の担当者は「(人事管理システムは)過剰スペックで、機能の説明に寄りかかっているところがある。活用法を説明しきれていない」と話す。このあたりに、製品開発のヒントがありそうだ。
人事管理システムの方向性