富士通(山本正已社長)は、自社利用を目的に巨大なプライベートクラウドを構築する。情報の伝達と共有のためのコミュニケーション関連機能を複数もつクラウドで、利用者は、富士通のほか、子会社や関係会社を含めて17万人にも達する。実現すれば、国内最大規模のプライベートクラウド環境ができあがることになる。
富士通は、国内で約10万人、海外で7万人程度の従業員を抱え、連結子会社数は500社ほどもある。今回のクラウドは、富士通だけでなく、グループ全体のスタッフが利用する共通のコミュニケーション基盤を構築・運用するというビッグプロジェクトだ。
スケジュール・プレゼンス(在籍情報)管理や電子メール、ウェブ会議、情報共有基盤といったコミュニケーションに関連する複数のシステムを、プライベートクラウドで構築する。操作する端末はマルチで、パソコンや携帯電話、スマートフォン、タブレット端末に対応する。システムは、富士通製品ほか、グローバル協業する米マイクロソフトと米シスコシステムズの製品を活用して構築する。
富士通と子会社は、これまでそれぞれが独自にシステムを選定・構築して利用していたが、それではグループ企業間の情報共有が進まないと考えた。共通したITインフラを活用することで、コストの削減効果も見込んだわけだ。コスト削減の効果は、年間のシステム運用費で30%、年間出張費は20%以上と試算している。すでに富士通本体の一部の従業員が利用しており、2012年4月には国内グループ会社に展開。13年度までに、海外を含めたグループ全体が新インフラに移行する計画だ。拠点を複数設置するグローバル企業が、コストを圧縮し、統制を効かすために、国や拠点に関係なく、共通のITインフラを構築する動きは最近のトレンドだ。だが、ここまで大規模なプロジェクトは類をみない。富士通は、この自社利用のノウハウを武器にして、グローバル展開する大手企業などにも売り込む。販売目標は3年間で500億円。今回の事例を広告塔としても位置づけ、クラウド事業の拡大に結びつける考えだ。
情報システムは、主に“情報系”と“基幹系”に大別できる。情報系は、今回富士通が統一するコミュニケーション関連のシステムを指す。一方、基幹系とは販売・生産管理や人事給与など。クラウドで、基幹系を動かすことに不安を抱くユーザー企業は少なくない。そのため、現在では情報系のシステムをクラウド化する動きが多い。まさに今回の富士通のようなパターンだ。
IDC Japanが2011年10月に発表した資料によると、国内のプライベートクラウド向けソフトの2010~15年の年平均成長率は35.2%、15年には2126億円に達する。伸びる可能性は高い。自社利用の実績を武器に、それを拡販に生かす──。最近のトレンドを考えれば、富士通の今回のプロジェクトは、ユーザーのニーズが高まっている分野で、タイミングも合致している。「基幹事業にする」と山本社長が強調するクラウドを、富士通は着々と推進している。(木村剛士)