情報システムの最も合理的な提供方法を巡って、ITベンダーとユーザー企業ともに模索が続いている。メンテナンスフリーのクラウド方式を選ぶ顧客が増える一方、オンプレミス(客先設置)やSIerが運営するデータセンター(DC)を柔軟に選択したり、組み合わせたりすることで、最もコスト削減効果が高い運用を試みるユーザーも多い。ソフトウェアやサービスを提供するITベンダーは、オンプレミスやアウトソーシング、クラウドなどさまざまなソフトライセンス体系やサービス体制のより一段の整備が販売拡大に欠かせない要素となっている。
輸入生活雑貨店「PLAZA」などを運営するスタイリングライフ・ホールディングス プラザスタイルカンパニーは、POSシステムや顧客管理(CRM)システムを新規導入し、この10月から直営店全100店舗で順次稼働を開始している。システムを納入したのは有力SIerのアイティフォーで、主力製品の小売業向け基幹システムパッケージソフト「RITS(リッツ)」のモジュールを活用したことに加え、今年8月にアイティフォーが新設したデータセンター(DC)を活用したフルアウトソーシング第一号案件でもある。ここでポイントとなるのは、パッケージとクラウドを組み合わせて、納期を短縮するとともにシステム運用コストを従来比で約4割削減した点だ。業者の選定を担当したスタイリングライフ・ホールディングスの上野慎一・グループシステム本部長は、「短納期で運用負担を大幅に軽減できる点を評価した」と経緯を話す。
別の事例ではシステムベンダーのウイングアークが、自社のSI(システム構築)プロジェクト管理用のシステムを導入する際、「パッケージソフトとクラウドサービスの両方を提示できるベンダーを第一条件として選考した」(ウイングアークの澤井良二・インテグレーションサービス部長)。プロジェクト管理のパッケージを開発しているベンダーは多いが、クラウドとパッケージの両方式で提供しているベンダーは意外に少ないのが実状だ。ウイングアークの導入案件では、両方式を提示し、運用コストと使い勝手をユーザーが比較・選択できるよう提案したテンダの「Time Krei(タイムクレイ)」が受注を勝ち取る結果となった。
ITベンダー側も、こうしたユーザーの要望に応えるかたちで、従来型のオンプレミスとクラウドの両方式をそれぞれを用意するケースが増えている。ソフト開発のリンコムは主力商材であるグループウェア「リンコムネクスト」について、パブリッククラウドサービス「BIGLOBEクラウドホスティング」を活用するかたちで、パッケージ版とクラウド版の両方のサービスを揃えた。リンコムの野村剛志取締役は、「ここへきてクラウド版への引き合いが強まっている」と、ユーザーの選択の潮目が変わってきたことを実感している。
とはいえ、ユーザーは5年なら5年の減価償却の期間を設けて、必要なコストがいくらなのか明確にしたいと考えるもの。例えば、パブリッククラウドは原則として消費したITリソースの分だけ料金が発生するため、繁閑の差が激しいゲームや通販といったコンシューマ向けサービスでは、「当初予想していたよりもコストがかかってしまった」(SIer関係者)というケースが少なくない。この点、従来の自社電算室やホスティングはピーク時への対応能力に限界があることもあって、“知らないうちに月額料金が増えていた”などということは起きにくい。
図に示したのは、情報システムの主な運用形態だが、先の「PLAZA」の事例はSIerのデータセンターにフルアウトソーシングするケースで、ウイングアークやリンコムはベンダーが管理するクラウドサービスを直接利用するケースにあてはまる。ITベンダーは、パッケージをつくって終わりではなく、システムを運用形態別にコストシミュレーションしてユーザーにわかりやすく提示し、ユーザーが最も割安な選択ができるようソフトライセンスやサービスメニュー体系を整備することが成果につながりそうだ。(安藤章司)