家電量販店やパソコン専門店の法人向けビジネス領域が拡大している。デジタル機器や家電の販売だけでなく、最近ではユーザー企業のニーズに適した製品・サービスを創造して提供する提案型のビジネスを手がけるようになってきているのだ。各社とも、法人部門の体制強化や、店舗に法人カウンターを設けて間口を広げるなどの取り組みを進めている。個人を対象に店舗での販売を主力としたビジネスモデルに、製品をシステムとして提供していくビジネスモデルを加えることで、新たな収益源を確保することが狙いだ。

店舗に法人カウンターを置く家電量販店が増えている(ヤマダ電機LABI秋葉原パソコン館)相次ぐ法人対応体制の強化
専門組織で分社化の動きも

エディオン
石井佳行部長 家電量販店やパソコン専門店のなかで、法人向けビジネスを強化する動きが相次いでいる。エディオンは、昨年10月に法人向けビジネスを手がける組織を統合し、営業本部営業統括部のなかに法人外商部を設置した。担当する石井佳行・営業本部営業統括部法人外商部長は、「これまで法人顧客の対象にしていた中四国、中部、関東などだけでなく、新たなエリアとして拡大が期待できる大阪を中心とした近畿などでも顧客を開拓する体制を整えた」としている。これまで中四国では農協関連、中部では教育機関などを中心にユーザー企業を獲得してきた。近畿でも、「強みを生かしながら主要な業種に入り込んでいく」(石井部長)という。
さらにエディオンは、全国の店舗に法人カウンターを設置。個人事業主やSOHOなどの製品購入をサポートする。現在までに名古屋市や東京・秋葉原など、主要4店舗で設置を完了し、今後、「13年4月までに10店舗を追加する」との方針を示している。
パソコン専門店を展開するサードウェーブグループは、12年8月1日付で法人部門を分社化。サードウェーブテクノロジーズを設立した。法人に特化したことで、サーバーやパソコンなどの販売が順調に伸びている。今年度(13年7月期)の売り上げは前年度比9%増を見込んでおり、来年度以降も10%前後の成長率を維持する計画だ。
サードウェーブテクノロジーズの顧客は大学や企業の研究所などで、検証用のサーバーなど特殊用途の製品をBTO(受注生産方式)で提供している。ユーザーのニーズを吸い上げてカスタマイズした製品でユーザー企業を獲得。野本卓社長兼COOは、「特殊用途というニッチな市場ではあるが、ユーザー企業のニーズはさまざまで、既製品では満足しない状況になっている。ユーザー企業の声をしっかりと聞き、要望に応じた製品を提供することがポイント」としている。
ニーズに適したシステム提案
SIerとのパートナーシップを深耕

サードウェーブ
テクノロジーズ
野本卓 社長兼COO 家電量販店やパソコン専門店は、主に店舗で個人相手に商品を販売するのがこれまでのビジネス形態だった。しかし、個人向けの家電販売は厳しい状況にあって、市場は年々減少する一方。そこで、各社とも“第二の柱”として法人への販売に力を入れている。しかも、単なる物売りではなく、企業ニーズに適した製品・サービスの提供で収益を高めようとしているのだ。
エディオンは、HEMS(住宅エネルギー管理システム)やBEMS(ビルエネルギー管理システム)など、消費電力の削減などを軸にした製品・サービスの提案に力を入れている。例えば、施設やビルのエアコンなどをリプレースした際に、エネルギー管理システムの導入も促していく。石井部長によれば、「現在、ソリューションの開発を進めている」ということだ。また、デジタルサイネージ関連のビジネスも手がけ、店舗を訪れた個人事業主や小売業を対象に提案していく方針だ。
サードウェーブテクノロジーズは、「ユーザー企業のニーズは、規模や業種に関係なく複雑化している」(野本社長兼COO)と判断し、これまでの特定用途の企業だけでなく、「最近では、教育機関や研究機関以外でも製品を提供している。市場を見極めながらということになるが、今後は一般オフィスへの提案も検討していきたい」としている。BTOのサーバーやパソコンであれば、個別のニーズにきめ細かく対応するノウハウをもっていることに加え、「提案次第で、ソリューション提供などの大きな案件につながる」といううまみもある。
新規案件を獲得していくために取り組むのは、メーカーやSIer(システムインテグレータ)などとのパートナーシップだ。エディオンの石井部長は、「今後はさまざまな企業とアライアンスを組むことがビジネス拡大のポイント」と捉えている。サードウェーブテクノロジーズも、SIerが案件ベースでニーズに応じたサーバーの開発を依頼してくるケースがあることから、「法人に特化した会社としてビジネスの可能性を探っている」(野本社長兼COO)段階だ。
ヤマダ電機やビックカメラ、ヨドバシカメラなど、主な家電量販店は法人向けビジネスを手がけ、本部だけでなく、法人カウンターを設けている店舗も増えている。今後も法人ビジネスの拡大を図る家電量販店やパソコン専門店が増えていくことは間違いないだろう。